Steins;Gate/輪廻転生のカオティック 作:ながとし
8月11日。
俺は牧瀬紅莉栖のタイムリープマシンの制作の手伝いを申し出た。
そしてそれと同時にタイムリープマシンを二人同時に跳べるようにお願いもした。
岡部倫太郎だけタイムリープして行かれてはサポートをすることができないからだ。
「それで、かかる費用とかなんですけど予算としてこれを使ってください」
俺が封筒から取り出したのは70万円。
「ちょっと、いきなりこんな大金渡されてもこっちが困るわよ」
「そんなに気にしなくていいですよ。ほら、以前岡部さんがロト6の番号を漆原さんに言って4等が当たったことがありましたよね」
「なっ、まさか貴様。あの時の三等を当てていたのか!?」
「そうです。そんなわけで買い物、よろしくお願いします」
牧瀬紅莉栖が元々書いていたメモに”×2”と書き足して、なんでもないように岡部倫太郎に渡した。ジャンク屋さんでブラウン管のリモコンを買うように言うのも忘れない。
驚くというか納得しているというか、微妙な顔をしたまま岡部倫太郎は椎名まゆりを連れてラボを出て行った。
俺もそのあと階下のブラウン管工房にでも行こう思い、牧瀬紅莉栖に留守番を頼んだが、返ってきた言葉は俺と話がしたいとのことだった。
「それで、瀧原さん、昨日はどうしたんですか?」
「どうしたとは何です?」
「とぼけないでください。あなた、昨日の話し合いの時ひどい顔でしたよ」
「…………」
「また、例の超能力みたいなものが関係しているんですか?」
答えられない。どう答えたらいいか分からない。
「まぁ、いいです。でも、一つだけいいですか? あんまり気負わない方がいいですよ。どれだけあなたが未来に起こることを知っていたって、あなたが神になったわけでもないんですから」
そういうと牧瀬紅莉栖は、パソコンに向かって何やら操作をし始めた。
優しい女性だ。なんというか心にキた。こんな言葉を使うのもアレだと思うが事実、きゅんとした。
牧瀬紅莉栖の言葉をなんとなく頭の中で反芻しながら、下の階へ降りた。
ブラウン管工房前のベンチに座る。
空は青く、こうしてだらけているだけでも素晴らしい時間に思える。雲がゆっくりと流れてゆく。
「よっ、若造。こんな真昼間からどうしたよ?」
店の中から現れたのは天王寺裕吾。このブラウン管工房の店主だ。
「ただ、自分って何だろうなーっと考えていただけです」
見知らぬ人に話しかける天王寺裕吾、それにこたえる俺も相当へんな奴だとおもう。
「悩み多き青年期ってやつかぁ? おい」
「そんなところです」
天王寺裕吾が俺の隣にドカッと座る。でかい。
しばらく言葉を交わさないまま天王寺裕吾の筋肉の熱量を感じる。
「なんでまた、こんなところで黄昏てるんだ?」
「……上の階の未来ガジェット研究所のメンバーなんですよ。それで外の空気が吸いたいなーっと」
「かーっ。こんなまともそうな奴があの岡部とつるんでるなんて信じられねえ。悪いことはいわねぇ、岡部とは縁を切るこった」
天王寺祐吾は軽く笑いながらそう言った。
「あんなのでもいいやつなんですよ。幼馴染を大切にしているし、何よりも―――」
俺よりも―――
「強いんです」
「そうか? ひょろい生意気なガキにしか見えないがな、俺からみりゃお前の方がよっぽどしっかりしている様に見えるね」
「僕は……全然ですよ。決意は出来ないし、結局流されてたどり着いた場所でも本当にこれでよかったのかって考えてしまうんです」
「若いのにまぁ、難しいことを考えてるもんだ」
若い、か……
「俺もこんなナリしてるけどな、選択出来ずに流されてしまうことばっかりだったよ」
天王寺祐吾は子持ちだ。それでいてラウンダーでもある。妻らしき人もいない。やはり過去に何かあったのだろうか?
「力ってもんは恐ろしい。腕っぷしじゃねぇ、見えない力の方だ。俺は立ち向かうことすら許されなかった。……いいや、立ち向かおうとしなかったんだ」
天王寺祐吾も空を見上げる。
「こうやって、過去を思うことはいつだって出来る。あの時必要だったのはその時を思う気持ちってやつだったんだろうな。もっとも、もう遅いがな」
よっと、声を出し天王寺祐吾は立ち上がった。
「ほら、若造。しゃきっとしやがれ、そんなんじゃまた流されちまうぞ。俺ができなかったことを託すわけじゃ無いが、せいぜい後になって後悔しない選択をするこった」
そのでかい巨体がヌッと店の中に入ったあと先ほどの威厳のある声ではなく甘えるような天王寺裕吾の声が聞こえてきた。天王寺綯と話しているのだろう。
少し耳を澄ませると綯の尻に敷かれているような印象の会話が聞こえてくる。
思わず吹き出す。
いくら、娘がかわいくても、あの容貌でそれはないだろうと改めて思った。折角こっちが感動してるっていうのに、これはない。
でも―――
「結局、何とか守ろうとか救おうとか頑張っても俺も同じ人間なんだなぁ―――」
俺は、自分の平穏な暮らしのために、他人の命を天秤にかけるなんてことをしているのに、どうしてこんなにもこの世界の人たちは暖かいんだろう。
また俺は泣いた。あまり泣きたくないのに。何度も泣くとその涙が安っぽく感じられるから嫌なのだ。
しかしこれは昨日の様な苦しい涙じゃない。何かから解放されるような涙だ。
くそっ、このままじゃ直に帰って来る岡部倫太郎と椎名まゆりに見られてしまう。せめてラボメンの前ではしっかりした瀧原浩二であらねばならない。
目をこすり、顔を叩き、気合を入れる。俺の戦いはこれからだ。
帰って来た岡部倫太郎と椎名まゆりと共にラボへと入った。もちろん、ちゃんとドアはノックしてあげた。
そのあとゴチンと鈍い音がしたが俺は何も知らない。だからそんなに睨まないんでほしいんだ牧瀬紅莉栖。@ちゃんねらーであることが決定的にならないようにしてあげたのに。
買ってきたパーツを持ち牧瀬紅莉栖と開発室に入る。開発室と言ってもカーテンで仕切られているだけなのだが。
俺にはどのパーツがどんな機能を持つのかは知らないが組み立てるのを見て覚えることができる。解説もしてくれたら機能もバッチリ覚えられる。
そんな特技を牧瀬紅莉栖の前で披露すると大層驚かれた。
「あんた、どこの大学に行ってるのよ。そこまで物覚えがいいならどこへだって行けるでしょうに」
「家から一番近い大学ですよ。紅莉栖さんほど頭も良くありませんし」
どれだけ膨大な知識があろうともそれを使う頭がなければ意味がない。俺の記憶能力だって転生したときの後付けだ。もともとそんなものを持っていなかった脳がそう簡単に対応できるとも思えない。
「それと、紅莉栖さん」
「なに?」
「さっきはありがとうございました。おかげで気が楽になりました」
「そう? 役に立ったのならよかったわ」
「よかったら、何かお礼をさせてくれませんか?」
「そんな、いいわよ。でも、そうね。私も何か悩み事があれば相談させてもらうわ」
会話をしながらも止まらない手。こうしてタイムリープマシンが着実に完成へと近づいていく。
それから椎名まゆりは今日ラボに泊まるだとか臀部に蒙古斑だとか部屋にある芳香剤がきれているだとか話した後、俺たちは一時間ほど集中的に作業をこなした。
今はその後の休憩中だ。岡部倫太郎は夕食を買いに行っている。
そして椎名まゆりと牧瀬紅莉栖は”岡部がいない間にシャワーを浴びさせてもらうわ”と絶賛シャワー中だ。
「ひゃっ! ちょっとまゆり! やめて!」
「えへへー。紅莉栖ちゃんの肌はすべすべなのです」
「ちょっ!」
「よいではないかー、よいではないかー」
俺は耳をふさいだ。
椎名まゆりが遊んでいるせいだろうか? 中々あがって来ない。
そう思いながらシャワー室の事を頭から追いやろうとテレビを見る。
階段を駆け上がる音。
ドアが開いた。
「っはぁ……っはぁ……、紅莉栖とまゆりは!?」
傍から見たら変な格好をしていた俺を見るなり岡部倫太郎が叫ぶ。
「シャワーに入ってます」
岡部倫太郎は数歩ラボに入った後、床に伏せた。
そう言えば脅しのメールが来るんだったか。作業に必死で忘れていた。
「メールが来たんですよね? それも脅しですから今のところ問題ありません」
「それを先に言ってくれよ……」
それから、二日間、俺と牧瀬紅莉栖は岡部倫太郎と橋田至のサポートを受けながらタイムリープマシンの完成を急いだ。
俺が頼んだ二人でタイムリープするための機能、通称デュアル機能は橋田至の尽力もあり何とか実用のめどが立った。
後は最終調整を残すのみだ。
つまりあの地震のような揺れを起こさなければいけないわけだ。
岡部倫太郎だけが行かされそうになったが俺もついて行くことにした。
ブラウン管工房に入るとカランカランとドアに取り付けられたベルが鳴った。
天王寺裕吾と阿万音鈴羽。そして天王寺綯が42型ブラウン管を囲んでテレビを見ていた。一応営業中だよな?
「おっ、岡部と前の兄ちゃんじゃねえか、ブラウン管でも買いに来たか?」
「おっすー岡部倫太郎。それと瀧原……あぁー!!、いやなんでもない!」
今頃俺がジョン・タイターと言ったことを思い出したのだろうか。しかし今は言えまい。
「そう言えば自己紹介をしてなかったな。俺は天王寺裕吾。見てのとおりこのブラウン管の店長をやってる。こっちの可愛いのが娘の綯だ」
「初めまして……天王寺、綯です」
俺はしゃがんで目線を合わせる。
「初めまして。瀧原浩二です。よろしくね」
手を差し出すとゆっくりとだが握り返してくれた。岡部倫太郎はこんな子をいじめていたのか。
「さて、僕が岡部さんとここに来た理由は今日の限りでいいですからあの揺れを起こす事を許してほしいんです」
「あの揺れって……地震みたいなやつか?」
「そうです。大変申し訳ないんですがお願いします!」
崩れ落ちそうなブラウン管の位置は掴めた。俺は頭を下げ岡部倫太郎の頭も掴んで下げさせる。そしてとどめだ。
「少ないですが、どうぞ」
五十万ほど包んだ封筒を身を近づけて渡す。勿論ロト6の賞金の余りだ。タイムリープマシンにはそこまでお金はかからなかった。
「なんだ、おめえ、分かってるじゃねえか」
中身を少し出してペラペラと弾じく。
思わずにっこりと笑った天王寺裕吾は、いわゆる時代劇のお代官様の様な顔だった。
「ひっ、お父さん悪い人なの?」
「ち、違うぞ綯。これは大人の取引ってやつでな、ほ、ほらビジネスってやつだ。だから何もわるいことはしてないんだ!!」
慌てふためく天王寺裕吾の様子に笑いを堪える。
「お父さんはいっつも綯のために頑張ってるんだよ。ほら、このお金で何かおいしいものを食べに行こうな」
「……もう悪そうなことはしないでね、お父さん」
「ああ、もちろんだよ、綯」
その後、阿万音鈴羽から牧瀬紅莉栖に関することを聞かれたり、岡部倫太郎が父探しについて聞いたりしていたりするうちに例の揺れが来た。
怯えた天王寺綯は天王寺裕吾に抱き着いた。
落ちてくるブラウン管を地面に落ちる寸前に胸で受け止める。
重いぃ!
直ぐに天王寺さんが助けに入ってくれて事なきを得たが……背骨が折れるかと思った……
「おめえ、体張ってブラウン管を守るたぁ、気に入った! 今日は盛大に揺らしやがれ」
俺は取り敢えず、ありがとうございますとだけ言って呆然としたままの岡部倫太郎を連れてラボへと戻った。