Steins;Gate/輪廻転生のカオティック 作:ながとし
あれから俺たちは直ぐにタイムリープマシンの仕上げに取り掛かった。
ヘッドギアの数が原作とは違い二つになるのでその分時間は多くかかるはずだ。
でも俺がタイムリープマシン制作にかかわっていることで時間的には違いはない筈。俺が足を引っ張っていなければの話だが。
制作していくうちに『電話レンジ(仮)』の内部構造について詳しく知ることができた。
興味があったタイムリープに関する脳科学の話もだ。さすがにVR技術についても理論だけは知っているからと教えてくれたことには驚いた。
記憶に関する神経パルスパターンの資料を見せてくれたことよりは驚きは小さいが。
「できたー」
隣から声が聞こえてきた。椎名まゆりがコミケ用のコスを完成させたようだ。
ちょっと焦りつつも、製作段階で失敗していてちゃんと飛べませんでしたーでは、笑い話にもならないので慎重にヘッドギア最後のパーツを組み込んだ。
「こっちは二人がかりだっていうのに、負けたわ、まゆり」
俺が知らない間に勝負を持ち掛けていたらしい。
「でも、こっちももう終わりよ。ね、瀧原?」
「はい」
電話レンジを監視するパソコンとヘッドギアを結ぶコネクタを二本繋げる。
「完成」
本当に完成させてしまった。俺が、俺たちがタイムリープマシンを作ったのか。
Steins;Gateをやって、こんなのがあればいいなーって思いながらテキストを読み進めていた物ががほんとに作れてしまった。
ツインタワー型の特徴的なフォルムは再び新時代の象徴の一部となったのだ。
「……私たちは、とんでもないものを作ってしまったかもしれない」
俺がしみじみと達成感を感じる中、ラボメンたちは、ばつの悪そうな顔をしていた。
記憶だけのタイムトラベルとはいえタイムマシンはタイムマシンだ。SFの象徴の一つと言ってもいいだろう。
それだけ夢のある装置であるが、子供ではない。同時に悪夢を生む装置になりえることを理解している。だから微妙な反応なのだろう。
「取り敢えず、正式名称を決めようではないか」
俺は黙って聞いていた。案を出すように促されるが俺はいいと言ってその様子を見守った。
原作の通り、”天国への弾丸列車”、”電話レンジ3rd Edition ver1.00”、”帽子付き電話レンジちゃん”、名称を出すのんきさに呆れながらも牧瀬紅莉栖が”タイムリープマシン”
結局、椎名まゆりが最終決定をしてタイムリープマシンが正式名称となった。
「タイムリープマシンに決定だ。では助手! タイムリープマシンの概要について今一度分かりやすく説明を頼む」
一度うなずいた後、牧瀬紅莉栖は壁に掛けられたホワイトボードに絵をかきながら説明をしてくれた。
「一言で言えば、データ化した記憶を、電子注入したカー・ブラックホール特異点を通過させ過去に飛ばす装置」
牧瀬紅莉栖の書いた可愛らしい顔文字の様なキャラクターが”カイバー”と言っている。
そしてそれに続くように”記憶データ走査(3.24T)神経パルス信号→電気信号へエンコード”と書かれた。
「そして、そのエンコードした記憶データをネットで転送」
「その3.24Tバイトの転送かかる時間は?」
「ここから、SERNに直通回線が通ってるからそんな時間がかからないと思われ。しかも64本束になってるから並列して送れば大体45秒くらいだお」
「これが、一人の場合。二人同時に跳ぶ時にはヘッドギアA、Bの順番にLHCへの転送が開始されるけどそんなに変わらないから安心して。でも絶対にヘッドギアA、Bを間違えちゃダメよ。前に言った通り重大な人格障害になる可能性があるから」
次々に絵と説明が書き足されてゆく。内容としては、ブラックホールで3.24Tを36バイト以下まで圧縮し、それをまた電話レンジまで戻す。そしてDメールの要領で過去の自分の携帯電話へ着信。時限式のデコードプログラムにより電気信号が神経パルス信号に戻り過去の被験者自身の脳に未来の記憶情報が携帯電話を通して発信される。
と同時に前頭葉を刺激して強制的に未来の記憶を思い出させる。といったものだ。
「それで、どうするの。実験するの?」
岡部倫太郎はしばらく悩んだ後、実験をしないことを選んだ。そしてしかるべき研究機関に託すとも言った。強迫メールの事もあるのだろう、いくら俺が大丈夫だと言っても不安なことに変わりはない。
その後、今日は宴会みたいなことをやろうという話になる。
得体のしれない恐怖から目を背けたいからだろうか。不自然なくらいに直ぐ決まった。
牧瀬紅莉栖と岡部倫太郎が買い出しに行っている間、俺はこの後のラウンダーの襲撃に備えるために電話レンジが落ちて空いた穴を少し広げた。これでジャンクショップで買ってきてもらったリモコンも問題なく使えるだろう。
階下に人の気配がないことを確認してから一度付ける。
キーンという独特な音の後に刑事ドラマの声が聞こえてきた。直ぐに消す。
問題ない様だ。
後は、簡単なトラップでも用意しておこう。
作り方は簡単。ラップと押ピンだ。確かラウンダーの集団は一瞬で部屋の中に入って制圧した筈だ。その際ドアを蹴破ったとあるが、ここは日本だ。外国のドアのように内開きじゃない、外開きだ。
あくまで俺のイメージだが、天王寺さんでも外開きのドアを蹴破ろうとしてもせいぜいへこむぐらいだろう。
なので、秋葉原駅爆破テロ予告のテロップが流れた後。阿万音鈴羽がラボから出て行った直後、俺は丁度頭が通るだろう位置と足元に、このラップトラップを仕掛ける。すると扉を開けて勢いよく入って来たラウンダーはどうなるだろうか。”筋肉ダルマのラップ巻き、銃を添えて”の完成だ。三分クッキングも真っ青だろう。
それに先頭が詰まれば少しは時間も稼げる。直に阿万音鈴羽も加勢に来るだろうし、その間にタイムリープだ。
椎名まゆりが死ぬところを岡部倫太郎に見せる必要はない。ただ死ぬかもしれないと思わせるだけで大丈夫だろう。足りない分は俺がサポートする。世界線は今までの干渉結果から考えるに多少は融通が利く。
そんな考えをもって、始まった宴会へと参加した。
今回の宴会も酷いものだ。ラボメンガールズ達は前の失敗から何も学んでいない。自分で自分の料理を食べたことがあるのだろうか?
そして何よりも。ピザだ。
「おい、ダル! 届いたピザ全部同じ味じゃないか。前の時にも同じ奴買っただろ! 俺達の生命線になんてことしてくれるのだ!」
「ズバリ僕の好み」
フェイリスは、雷ネットの大会。漆原るかは、コスプレさせられるのを警戒して来なかったようだ。
話はそれからコスプレに関するものになっていった。
「ねぇねぇ、紅莉栖ちゃん。今度のコミマに、コスプレして出てみないー?」
「えっ!?」
「新しいのはもう作れないけどね、去年作った、星来覚醒後バージョンコスがあるんだー。まゆしぃの感覚はクリスちゃんにぴったりだと言っているんだよー」
まゆりはどこぞのエロい中年オヤジのように手をワキワキさせる。
「あぁ! まさかあの時!」
「えへへー」
まさかあの時とはシャワー室でのことだろうか。牧瀬紅莉栖の顔に赤みが差す。
「……まゆり、恐ろしい子。でも……ちょっと、興味あるわ。あと、先に言っておくけど、人前には出たくないからね」
話は牧瀬紅莉栖の改造制服に及び、ついに椎名まゆりは、明日コスプレをするという約束をさせたのだ。
しかし、橋田至の発言により椎名まゆりが勧めているコスプレが、パンモロのコス。つまり、パンツがもろに見えていると言うことが牧瀬紅莉栖を躊躇させていた。
「絶対着てね。絶対だよー」
これは断りづらいだろう。ここでやめると言ったならば、椎名まゆりが涙目になって”約束したよねー”と言って責めてくる事が俺の目にも見えていた。
そんな和やかな空気を一変させる言葉を阿万音鈴羽は発した。
「やめておいた方がいいんじゃないかな。牧瀬紅莉栖を信じると間違いなく後悔する事になるよ」
「ちょっとそれ、どういう意味よ」
正しく犬猿の仲。いや、彼女たちの発するプレッシャーからは龍と虎というべきだろう。
しかし、この喧嘩はおそらく勘違いによるものだ。阿万音鈴羽は未来の牧瀬紅莉栖。つまりSERNタイムマシンの母としての姿しか知らないのだ。
ここはひとつ脅してやろう。
「阿万音さん。たった一つの視点ではなく自分の目で見たことも信じるべきです」
「うるさいなぁ、瀧原浩二はあたしの何を知ってるっていうの!?」
「ピンバッジ。ワルキューレ。……僕、知ってたでしょ?」
「あ……」
阿万音鈴羽の目から怒りの色が消えてゆく。そりゃそうだ。何も知らないはずの男から言外に全て知っていると言われたのだ。彼女には時を超えたストーカーにしか思えないだろう。
俺でもこんなこと言われたら怯えるしかない。
「また、瀧原の予言か?」
「予言ってなに?」
「ああ、瀧原は何でもこの先に起こることを知っているらしいんだ。実際俺も考えを読まれた。それにこいつは鈴羽より早くラボに来たにもかかわらずナンバーは009だ。今考えるとほんとうに恐ろしい男だ」
「へぇー、そうなんだ」
短く言葉を切って、警戒しながらも俺を見つめる阿万音鈴羽。牧瀬紅莉栖に向き直る。
「ごめん……あたしちょっとどうかしてた」
「……まぁ、いいわ。私としても阿万音さんとも仲良くなりたいもの」
牧瀬紅莉栖は何とか怒りを収めてくれたようだ。
宴会もほとんど終わり、みんなダラダラしている。ソファーの前の机あたりにラボメンは集まっているものの疲れているようだ。
岡部倫太郎、橋田至、牧瀬紅莉栖は、タイムリープマシンを今まで徹夜で頑張って制作していたし、椎名まゆりもコミケに向けてコスを作っていたからだろう。
ソファーにドクぺを持ちながらゆっくりと椎名まゆりの横に岡部倫太郎が座った。
俺は一人警戒しながらテレビを見続けていた。
つけていたテレビから警告音のような音と共にテロップが流れる。緊急速報だ。
”爆破テロ予告で山手線、総武線、京浜東北線の全線が運転見合わせ”
「岡部さん、タイムリープマシンの方にいてください」
「なんでだ?」
「いいから早く行ってください」
万が一タイムリープする前に銃弾がタイムリープマシンに当たったりしたら事だからだ。なるべく早く飛んだ方がいい。
阿万音鈴羽もタイムリープマシンの状況を聞いて玄関に向かう。
俺もタイムリープマシンの設定をしようと開発室へ―――
いきなりドアが開き屈強そうなラウンダー共が乗り込んできた。
思わず振り返る。
何でだ!? まだ時間は早いはずだろ!?
一見何の関係もなさそうな外国人観光客の姿をしているが手には自動小銃が握られている。
一番前にいた阿万音鈴羽は必死に押しとどめているが、すぐにやられて部屋の中に入られるだろう―――
「紅莉栖! ジャンクリモコンの電源を入れろ! 岡部! 跳べぇえええ!!」
牧瀬紅莉栖はおたおたしながらも電源を入れ、岡部倫太郎は、俺の叫びにハッとしてすぐにタイムリープマシンの設定を打ち込み始める。
ヒールの走る音の後に女の声が聞こえた。
「殺せッ、使わせるな!」
岡部倫太郎を狙う銃口。
阿万音鈴羽は押さえるので必死で動けない。視界を覆うモアッド・スネークによる水蒸気も無い。
岡部倫太郎が……死ぬ?
それは無いと、もう言い切れない。
俺がいるせいで未来が悪い方向にまさに今、傾いている。
―――せいぜい後になって後悔しない選択をするこった。
「―――!!」
誰かの声が聞こえたと思ったら、俺は岡部と銃の直線上に飛び出していた―――。
飛ぶ俺の胸からあふれる血。
奴、適当に何発も撃ちやがった。
椎名まゆりもその銃弾の一つに頭を撃たれていた。これが、世界線の収束?
倒れる中、岡部倫太郎と目が合ったような気がした。
「跳ぉべよぉおおおおお!!!!」
掠れる視界。青い放電現象を俺は最後に確認した。
8月13日 19時53分
↓
8月13日 16時53分
-追記-
誤字報告ありがとうございます。