Steins;Gate/輪廻転生のカオティック 作:ながとし
8月13日。
俺は今日、牧瀬紅莉栖と共にデュアル機能搭載のタイムリープマシンを完成させた。
そのあと岡部倫太郎の提案でこのマシンの正式名称を考えるが、それぞれが自分の趣味丸出しであり、最終的は原作と同じ牧瀬紅莉栖の案、”タイムリープマシン”とこのラボの議長、椎名まゆりが決定したのだ。因みに俺は参加を遠慮させてもらった。
話はそれから完成祝いの宴会をしようと言う話になり、集合は7時ということになった。
買い出し役となったのは牧瀬紅莉栖と岡部倫太郎の二名だ。俺も行ってもいいのだが、8時前のラウンダー襲撃のことがある。早めに準備をしておいた方がいいだろうということでパスさせてもらった。
その他のメンバー、椎名まゆりは漆原るかのところに誘いに行き、橋田至はどこかに行ってしまった。
まだラボ内に牧瀬紅莉栖と岡部倫太郎がいる。
2人が買い出しに出かけてから準備を始めてもいいだろう。ソファーにゆっくりと腰を掛けた。
「岡部、何してんのよ!?」
いきなり大声を上げた牧瀬紅莉栖に思わず俺はビクっとした。
「今、壊そうとした?」
「…………」
俺は自分の耳を疑った。岡部倫太郎がタイムリープマシンを壊そうとしている? そのイベントはまだ早い筈だ。なんてったってタイムリープしてからじゃないとそんなこと岡部倫太郎はしない―――
……まさか未来の俺が失敗した?
岡部倫太郎の様子を見るに一人でタイムリープを繰り返しているようだ。つまり椎名まゆりは何度も死んでいる。
俺が一人でタイムリープさせなければいけないほどの状況にこれから陥るのか?
分からない。
ただ、俺は原作の知識を元にしか動かないはずだ。ラウンダーに襲撃されて岡部倫太郎がタイムリープする予定の時刻は19時56分。それ以前に何かがあったことは確かなようだ。
つまり、俺が居るせいで未来が悪い方向になっている?
俺が調子に乗って都合の良いように干渉してきたからなのか?
そう考えると背筋が凍るような感覚がした。
今までの自分の行動がすべて否定されたような気がしたからだ。
俺がこの世界に来てから考えてきた、原作展開への収束論も危うい。もしこれからまるっきり原作の展開と違うことが起き始めたらどうしよう。
恐怖。
今までは神の視点のごとくこの先が読めていたが、いきなり全てが見えなくなるような錯覚に陥った。
岡部倫太郎がラボを飛び出していった。
いや、まだだ。まだ原作の展開のうちに入っている。こうしてパイプ椅子でタイムリープマシンを壊そうとしたり牧瀬紅莉栖の言動をウザがって飛び出していく展開は確かにあった。
まだ、何とかできる。
逆に考えれば、原作のままじゃないか。
「………何よあいつ」
「紅莉栖さん、岡部倫太郎を追ってあげてください」
「はぁ? なんであんな奴を追わなきゃならないのよ」
「紅莉栖さんも薄々感づいてる筈ですよね? 岡部さんがタイムリープしてきたことに」
「確かに、そうだけど……。瀧原さんは行かないの? 一番事情を知ってるのはあなたなんじゃない? 私よりよっぽど適任だわ」
「僕は、出ていくことができません。これから先、僕にも予知ができない不測の事態があったことは、岡部さんとタイムリープして来なかった事からもわかる筈です」
牧瀬紅莉栖は考えるようなしぐさをする。
「分かったわ、それじゃ、しょうがないから行ってくる。ちなみにどこら辺に行くか分かる?」
「駅前の遊歩道です。でも時間を少し置いてから会いに行ってあげてください」
「さんきゅ」
白衣をさらりと脱いでラボを出て行った。
俺は、階下のブラウン管にリモコンが使えるよう、タイムリープマシン下の穴を少し広げた後、タイムリープマシンの設定を電話番号と5時間前に跳べるように入力して済ませておく。
飛ぶのはもちろん俺と岡部倫太郎だ。
橋田至、椎名まゆりがラボに帰って来たそのすぐ後に、牧瀬紅莉栖も岡部倫太郎を連れて帰って来た。
今の時刻は18時35分。
丁度いい時間だ。橋田至と椎名まゆりの両名には、牧瀬紅莉栖と岡部倫太郎が買い出しを忘れていた事にして、代わりに行ってきてもらった。もちろんお金は多めに持たせて。
「瀧原が設定してくれていた通り、岡部たちにはタイムリープマシンが完成する少し前、つまり午後2時前に跳んでもらう。瀧原は作業してる途中になっちゃうけど、岡部は私たちがタイムリープマシンを完成させるまで何もしてはいけない。マシンが完成しなかったら、きっとこの時間までの流れが大きく変わってしまう」
牧瀬紅莉栖は俺が入力した設定を見直している。
「完成したらすぐに”実験はしない”といって皆を解散させる。そのあとに私に話しかけて。……未来から来たと言ったら私はたぶん信じる」
「なぜ、分かる?」
「そもそも電話レンジを改良してタイムリープマシンを完成させたのは瀧原とこの私なのだぜ」
確認し終えたのだろう。立ち上がりそう言った。
「それじゃ、準備できた。いつでも行ける」
岡部倫太郎はそれを聞くと電話レンジに電話をかけだした。
「気を付けて。私はいつだってあなたたちの味方よ」
そういって俺と岡部倫太郎の肩にそっと触れた。
8月13日 18時44分
↓
8月13日 13時44分
初めてのタイムリープ。
自分の存在の輪郭がぼやけているような感覚と共に脳が激しい不快感と痛みを訴える。
苦しい。しかしこれがタイムリープの代償だと言うのなら安いものだろう。
「ちょっと、瀧原? 大丈夫?」
気づけば俺はタイムリープマシン製作の最中だった。何でもないと告げると、苦しんでいた時間分を取り戻すように作業に熱中した。
一度作っていたおかげか作業は数分で終わった。
「できたー」
椎名まゆりがコミマ用のコスを完成させたようだ。
「こっちは二人がかりだっていうのに。負けたわ、まゆり」
そうだった。この二人は競争をしていたのだった。
「でももうこっちも終わりよね、瀧原」
「はい、もう終わりました」
「これで、完成」
「実験はしない」
「えっ!?」
いきなり、岡部倫太郎はそう言った。牧瀬紅莉栖は戸惑っている。
「―――あのな、いきなり全否定とか。私と瀧原が何のために作ったと思ってるの」
「タイムリープには問題が山積みだ。その点を考慮してだ」
「へ、へえ……。あんたにしてはまともな意見だな」
「何が問題なのー? 完成したんだよねー?」
「今日は、みんな疲れているだろうから解散にしよう。詳しくは後日に説明する」
「完成祝いにパーッと宴会ひらいたりしないん?」
「それも後日にしよう」
岡部倫太郎は椎名まゆりと橋田至をラボから追い出した。
椎名まゆりには携帯の充電器を持たせたようだ。岡部倫太郎はもう何回タイムリープしたのだろうか。
帰ろうとしている牧瀬紅莉栖をこっそりと引き留める。実験をしないと言われて大分不満そうだ。
「俺たちは、五時間後から来た」
「ホントなの? 瀧原?」
岡部倫太郎が言ったのになぜか俺に聞き返していた。
「はい。”未来から来たと言ったらたぶん信じる”と言っていました。それに”タイムリープマシンを作ったのは瀧原とこの私なのだぜ”とも」
「なに、その馬鹿っぽいセリフ。私はそんなこと言わない」
牧瀬紅莉栖の態度は急に疑いを強めた。あれを言おう。
「牧瀬さんが一番欲しいものはマイフォーク」
「ちょっ!」
「マイスプーンは既に持っているんでしたね」
牧瀬紅莉栖は頭を抱えた。
岡部倫太郎が小声で聞いてくる。
「……そんなこと言っていたか?」
「言う予定だったんですよ」
「……そうか」
理解するのを諦めたらしい。
そんなやり取りをしているうちに気を取り直したようだ。
「私が、そんなことを話すなんて……。確かに過去の自分に信じさせるにはいい手だけれども。恨むぞ五時間後の私」
どうやら信じてくれたらしい。
そのあと岡部倫太郎が、この時間から言えば、未来の牧瀬紅莉栖が言っていたことを話した。それに椎名まゆりが死ぬことも。
世界の構造だとか因果律とかの話になって来たので、5時間後に椎名まゆりが死ぬと岡部倫太郎の叫びを聞いて逃げ出される前に、ここは登場してもらおう。
俺は、その疑問を全て解消するにはうってつけの人物がいると話に割り込んだ。
ここで大声で俺は話す。
「聞いていますよね。阿万音鈴羽さん。今すぐ上がってきてください」
ポカンとしている二人をよそに俺はラボの玄関を見つめた。
ドアはゆっくりと開き、阿万音鈴羽がじっとこちらをにらみつけた。
「なぜ分かった、瀧原浩二。あたしが下にいるって知ってたみたいな口ぶりだったけど」
「ちょっと、今、阿万音さんは関係ないはずでしょ?」
「いいえ、彼女こそが、2036年からやって来た、タイムトラベラー。ジョン・タイターです」
「何っ? ジョン・タイターはたしか男のはずだぞ」
「カムフラージュですよ。ね、阿万音鈴羽さん」
目線が阿万音鈴羽に集まる
「その通りだよ。なんでお前が知っているのかは知らないが、確かにあたしがジョン・タイターだよ」
「ちょっとまって、全然意味が分からない」
牧瀬紅莉栖の声を無視して俺は話を続ける。
「僕と岡部さんは5時間後からタイムリープしてきたんです」
「そっか、君たちのタイムマシン完成したんだ。それで、私がジョン・タイターだって初めから知ってたってわけ?」
「厳密には違いますがそんな風に思ってくれたら幸いです。でも確かなことが一つはあります。椎名まゆりがラウンダーに襲撃されて死にます」
「えっ! 本当なの? 岡部倫太郎!」
「そうだ。俺はまゆりの死を回避するためにタイムリープをしてきた。それをどの世界線でも支えてくれたのが瀧原と紅莉栖だ」
それを聞くと阿万音鈴羽は顔を少し伏せ、呟く。
「……あたしのせいだ。あたしがグズグズしてたからこんなことに」
走り出そうとする阿万音鈴羽を掴んで引き留める。
「離してっ! あたしは行かなきゃいけないんだ!」
「タイムマシンは現在壊れています。あの大雨で何処からか浸水して―――」
「嘘だ!」
「……嘘だと思うなら確認してきてもいいですよ。でもそのあとは絶対に帰ってきてくださいね。あと、触るときには気を付けて」
そう言って手を放した。
阿万音鈴羽がラジオ会館に確認しに行った十分と少し後に、椎名まゆりと橋田至が帰って来た。
たまらず、岡部倫太郎が声を出す。
「お前たち、なんで戻って来た!」
「えーっとね。やっぱり、タイムリープマシンの完成をお祝いしてパーティーを開こうと思うのです」
「だから僕たち、近所のスーパーに買い出しに行ってきたんだお」
「いいか、お前たち、今から大事な話があるから帰るんだ」
その時丁度、阿万音鈴羽が帰って来た。
岡部倫太郎が二人を家に帰そうと言い訳を考える。
「いいよ、岡部倫太郎。椎名まゆりと橋田至にも関係のある話だし。それと瀧原浩二、忠告ありがと」
それから、阿万音鈴羽はラボメンたちの前で自分の正体や未来の事について明かした。自分が@ちゃんねるに出現したタイムトラベラーだと言うこと。この世界の未来がSERNによってディストピアとなること。牧瀬紅莉栖がSERN所属でタイムマシンの母と呼ばれていたこと。岡部倫太郎がテロリスト扱いされていると言うこと。
ラウンダーの事も話したが岡部倫太郎の反応を見て大分ぼかして話していた。
そのあと牧瀬紅莉栖の疑問により世界の構造の理論アトラクタフィールドの説明に入った。
もしかすると俺も何か勘違いしている部分もあるかもしれない。よく聞いて理解しよう。
「世界は”より糸”みたいなものなんだ。全体を見ると1本なんだけど、ミクロな視点で見るとさらに細い糸で構成されている」
椎名まゆりの裁縫セットから赤い毛糸を取り出して、阿万音鈴羽はそういった。
「そしてその細い糸は最終的に一つに収束する。過程は違うけど結果は同じ」
「それって、決定論ってこと?」
「ううん、似ているけど違うよ。もう少しアバウトなんだ。多世界解釈とコペンハーゲン解釈のいいとこどり」
分岐はするが、結果は同じというわけか。つまり、世界は1つだ。
「例えばこの糸をアトラクタフィールドαだとして、この青をβ、そして黄色がγ、白がδと、こんな風に世界は存在していてアトラクタフィールドごとに、起きる事象も収束する結果も違う。干渉性は喪失していて、それぞれが独立を保ってる」
色んな糸の毛糸をより合わせて少し太い糸ができている。
橋田至から”でもその話じゃ世界を変えるなんてできなくね?”とヤジが飛んだ。
「アトラクタフィールドが完全に分岐しちゃったらの話だよ。でも、今まさに分岐しようとしている瞬間だとしたら?」
別のアトラクタフィールドに移動できるということか。
「その、アトラクタフィールドって言うのは、平行世界っていうわけじゃ無いのよね」
牧瀬紅莉栖が疑問をぶつけた。
「そうだよ。幾つもの可能性世界が重なりあっているだけ」
「だとしたら、その世界観の観測はどうするの? それこそまさに神の視点でも持ってないと不可能だわ」
「普通ならね、でも―――」
リーディング・シュタイナー、世界線を越えて事象を観測する力が俺と岡部倫太郎にはある。
「岡部倫太郎が持っている特殊な力がSERNの支配という呪縛から世界を解き放つ鍵。今の君は神に匹敵する存在なんだよ」
岡部倫太郎は興奮するように震えていた。
「このアトラクタフィールドαからアトラクタフィールドβに到達すれば、収束する”結果”も変わるんだ」
その言葉は、言外に椎名まゆりを助けられると言っていた。
ホントに端折りすぎて申し訳ない。
ちゃんと、どういうことか伝わるか不安です。