鬼道衆最強、のんびり鬼道長さん   作:もちふじ

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お久しぶりです(小声)
夏休みに入ったら投稿しようと思っていたのですが、あっという間に最終日。結局ギリギリになってしまいました。
明日からまた学校が始まりますので、また暫く更新出来なくなると思いますが、少しずつ書き溜めてたまに投稿できるように頑張りますので、チラッと見てくださると嬉しいです。


天に立つ

「なに、これ」

 

自分以外誰もいない、いっそ恐ろしいまでに静まった地下議事堂で雛森桃は唖然と呟いた。だだっ広い地下に掠れた自分自身の声が響き渡る。

 

本来ここは一般隊士は勿論、副隊長である雛森ですら足を踏み入れることは許されない場所だ。まして、今自分は拘置の身。バレたら終わり、それが分からないほど冷静さをかいているつもりはなかったが、だとしてもここへ来ずにはいられなかった。尊敬する上司を、藍染惣右介を殺害した犯人を突き詰める為には。藍染は日番谷冬獅郎に殺されたはずだ。彼自身がそう残したのだから、間違えがあるはずもない。だから、こっそり日番谷の後ろを霊圧を消して着いてきた。

しかし、そこに広がっていた光景は雛森の冷静さをいともたやすく奪い去る。

吐き気がするような鉄臭さ。黒く固まった血。『誰もいない』ではない。『誰も生きていない』と表現するのが正しいだろう。

──即ち、死体の山。中央四十六室は皆死んでいた。

 

「ひ、ひつがやくんが、驚いてて・・・吉良くんが居て、日番谷くんはそれを追いかけていって・・・。じゃあこれをやったのは日番谷くんじゃない?でも藍染隊長が・・・」

 

藍染惣右介を殺したのは日番谷冬獅郎のはずだ。藍染自身がそう残したし、聡明な彼が勘違いや思い込みなどでそんなヘマをやらかすわけが無い。ならば中央四十六室を殺した者と藍染を殺した者は別人なのか。有り得ない。なんの目的があってそんな事を。

 

「分からない・・・。分からないよ・・・。何がどうなってるの・・・?藍染隊長は・・・、日番谷くんは・・・、吉良くんは・・・?」

 

ぐしゃぐしゃと黒い髪を自分で乱して、蹲った。こんな事をしても意味なんてないが、そうでもしないととても平静を保っていられなかったのだ。

こんな景色が見たかったんじゃない。大勢殺されているところを見たかったんじゃない。ただ、藍染を殺した犯人を突き詰めたくて。日番谷が殺したんじゃない、間違えだったという確信が欲しかっただけで。それで───、

 

 

「──教えてあげよか」

 

「・・・え?」

 

 

耳元で囁くような声が聞こえた。驚いて飛びずさるように後ろに下がって振り向く。大袈裟な雛森の行動が可笑しかったのか、背後にいた銀髪の彼はくつくつと喉を鳴らして笑った。口元を三日月に釣り上げる彼は普段と同じように何処と無く不気味だが、雛森は意を決したように声を絞り出す。

 

「い、市丸隊長・・・。教えるって、何を・・・?」

「ぜーんぶ。僕が知ってる限りの事を、全て。知りたいんやろ?・・・ほら、ボケっとせんでついておいで」

 

手招きして市丸はそのままふらり、と歩き始めてしまった。何処へ向かっているのかも雛森に告げずに。

猫のように自由気ままなその姿は雛森もよく知る鬼道長に似ていなくもいないが・・・。不気味さが段違いだった。彼はこんなに気味悪く笑わない。鬼道長の彼が猫だとすれば──さしずめ市丸は『蛇』といったところか。

 

市丸は雛森を待っている様子はなく、目を離すとすぐに消えてしまいそうだった。着いてこないならそれはそれでも構わない、とでも言いたげに。市丸は良くても雛森には今や彼が唯一の頼みの綱。見失ったら困るのは自分自身だ。雛森は我に返ったように市丸の後ろを追いかけた。

 

 

 

 

 

■ ■ ■

 

清浄塔居林。

四十六室のための居住区域で、如何なる理由があろうとも立ち入ることが許されないそこは、尸魂界唯一の完全禁踏区域だ。今雛森はそこにいる。

生真面目で規則を破ったことなど今まで一度もないような雛森にとって、今日一日で随分悪い事をしてしまった気がした。実際それは『悪い事』なんて枠に収まらないくらいのレベルだが、雛森の頭はもはやそこまで考えられていなかった。躊躇うことなくこの場に足を踏み入れた市丸も市丸だが、馬鹿正直に彼に着いていった雛森もどうかしている。

もっとも、ここに立ち入った事がバレたとしても罰を下す四十六室はもう既に死んでいるわけだが。

 

「市丸隊長・・・どうして、私をこんな所に」

「会わせたい人がおんねん。まあついてきいや」

 

奥へ奥へと歩いていた市丸が唐突に足を止めたことに困惑しつつ、雛森は拳をギュッと握って一歩踏み出した。『会わせたい人』とは誰なのか。彼は自分に何を教えるというのか。自分は・・・本当に彼に着いてきても良かったのだろうか。

 

「あ、あの。会わせたい人って私に、ですか・・・?」

「そうや。きみ以外に誰がおんねん。ほれ後ろ見てみい」

 

じゃり、と草履が土と擦れ合う音が聞こえて、雛森はハッとして後ろを振り返った。意図せず市丸の言いなりになってしまったらしい。

 

 

 

「え・・・」

 

 

 

そして愕然とする。

 

焦げ茶色をした緩やかな髪。

黒縁のメガネからのぞく温かい瞳。

雛森と頭一つ分違うほどの長身に、頼りがいのある身体。

そして、極めつけは──、

 

 

「やあ、雛森くん。心配をかけたね」

 

 

自分の名を呼ぶ、優しい声音。間違えなく、目の前にいる男は五番隊隊長藍染惣右介その人だった。

 

「あ、いぜんたいちょう、藍染隊長・・・藍染隊長っ・・・!」

「ああ。僕だよ。心配させてすまなかった」

 

そう言って彼の大きな手が雛森の頭を撫ぜる。優しい手つきに口元から熱い吐息がこぼれて、雛森はうっとりと目を細めた。心が洗い流されるようだった。温かくて、大きな手。紛れもなく、彼は雛森があれほど恋焦がれた藍染惣右介だ。

 

「本当に済まない・・・君をこんなに傷つけてしまって・・・。でも、信じていた。君ならきっと分かってくれると。僕にはやらねばならない事があった。・・・その為に死を装って・・・」

 

藍染の胸元にしがみついて、子供のように泣きじゃくりながら雛森は必死に首を横に振った。ポタポタと涙が溢れて、顔面は鼻水やら涙やらで大変なことになっている。

 

「いいんです。もう、いいんです。藍染隊長が生きていてくださるだけで私はもう何も・・・っ」

「ありがとう。きみを部下に持てて、本当によかった。ありがとう、雛森くん。・・・・・・本当にありがとう」

 

 

『さようなら』と。

 

そう聞こえたのと、腹部が燃えるように熱く感じたのは同時だった。ゆっくりと崩れていく自分の身体。腹から生えた綺麗な刀剣。「なにこれ」と言いたかった声は口から溢れ出た鮮血とともに掻き消える。地べたに膝をついた瞬間、徐々に力が抜けていって遂には冷たい床に倒れ伏した。

 

──藍染隊長。どうして、斬魄刀を握っているのですか?

 

──藍染隊長。どうして私は倒れているのですか?

 

──藍染隊長。どうして、そんな冷たい目をしているのですか?

 

 

藍染隊長。藍染隊長。藍染隊長。藍染隊長。藍染隊長。

教えてください。答えてください。声を聞かせてください。いつもみたいに頭を撫でてください。

一生お側に居させてください。貴方の、役に立ちたいんです。

 

だから、だから。

 

 

「あ、い・・・ぜんたいちょう・・・」

 

 

掠れていく意識の中で、雛森は必死に手を伸ばした。が、伸ばした手はついぞ掴まれることは無く、藍染は市丸を連れて雛森に見向きもせず忽然と姿を消した。

 

 

 

 

 

■ ■ ■

 

 

「──そんで、ほんまに良かったんですか?」

「良かった、とは?何の事だろうか」

「分かってるでしょうに。・・・九花厳くん、鬼道長のあの子。随分気に入ってたやないですか」

 

後ろを歩く市丸の言葉に藍染は薄く笑みを浮かべ、頬に付いた返り血を親指で軽く拭って、ああ、と答える。

藍染の協力者は市丸と、それからあと隊長格がもう一人。

 

市丸は藍染は物や人に執着しない冷血漢だと思っていたが、何故だか九花厳は例外だった。その理由は市丸は分からないが。だから、本来なら藍染は九花厳を味方に引き入れたがっていたのだ。

 

「構わないさ。どちらにせよ、着いてこいと言って大人しく来るような性格でもないだろう。それにこの先どうせ全面戦争となる。実力行使なら、九花厳を手に入れることも難しくない。なら、今急ぐこともないだろう」

「・・・あの子も藍染隊長なんかに気に入られて可哀想に」

「酷い言い草だな。何も危害を加えるなんて言っただろう。ただ気になるだけさ、彼という死神がね」

「気になるって・・・自分より優れた所があるからですか?」

「勘違いするな、彼が優れているのは鬼道だけだ。それ以外では私の足元にも及ばない」

 

ハッと鼻で笑ってバッサリ切り捨てた藍染に市丸は目を丸くした。確かに花厳の鬼道の才能は恐ろしいものだが、剣術体術は特別光るものを持ってはいない。それは勿論市丸も分かっていたが、彼は藍染のこんなふうムキになったような言い方に驚いたのだ。子供らしいというか、余裕が無いというか・・・とにかく藍染らしくない。

九花厳は死神の中でもトップクラスの実力者と言えるし、敵に回すと非常に厄介ではあるが、強いだけなら彼以外にもいる。例えば、一番隊隊長山本元柳斎重國。例えば、八番隊隊長京楽春水。例えば十一番隊隊長更木剣八。

そんな中で、何故九花厳に執着するのかが市丸には理解出来なかったのだ。

 

(藍染隊長って意外に負けず嫌いなんやろか)

 

考えられる可能性としてはそれだけだが、藍染惣右介の心なんて藍染自身にしか分からないものだし、ぶっちゃけ興味もない。

手持ち無沙汰で特に意味もなく市丸が自分の斬魄刀を弄っていると、不意に正面から視線を感じた。込められた感情は殺意と困惑、といったところか。僅かに目を開けつつ前を見て、市丸はわかりやすく顔を顰める。声をつけるとしたら「あちゃー」といった感じだ。

 

「やあ。──日番谷くん」

「ハァ、ハァ、藍染・・・!?」

 

息を切らせる程必死に駆けてきた銀髪の少年──十一番隊隊長日番谷冬獅郎は藍染の姿を見て、息を呑んだ。藍染惣右介が殺害された、という情報はやはり嘘だった。そう理解した瞬間、右手は背中に吊るした斬魄刀に伸びているのだから日番谷は優秀だと言えるだろう。市丸は、藍染は敵なのか味方なのか。ゆっくりと斬魄刀を鞘から抜きながら油断なく二人を見つめて、そこで日番谷は愚かにも動きを止めた。そもそも日番谷は雛森を追って此処に来たはずだ。その雛森の姿が見えない。加えて、強い鉄の匂い。

 

「──てめぇ・・・雛森は何処だ!」

「さあ何処だろうか」

 

ギリ、と音がするほど歯噛みして日番谷は藍染と市丸の間を瞬歩ですり抜けて、更に奥へと足を進めた。

 

結論から言えば、雛森は確かにそこにいた。ただ無事か、と言えばそうではない。腹部からは夥しい量の鮮血が流れ出ている。血の気の失せた青白い肌。かろうじて動いているだろう心臓。シロちゃん、いつまでたっても恥ずかしいあだ名で呼んでくる雛森は日番谷が声をかけても返事をすることは無かった。

 

「残念。見つかってしまったか。済まないね・・・君を驚かせるつもりじゃ無かったんだ。──せめて君に見つからないように粉々に刻んでおくべきだったかな」

 

ちっとも「済まない」なんて思っていなさそうな口振りでクスリ、と藍染は笑った。ここで日番谷の憶測は確信に至る。間違えなくここに居る藍染惣右介は敵だ、と。

 

「・・・藍染、市丸。いつから、いつからグルだった」

「勿論、最初からだよ。私が隊長になってから、ただの一度も彼以外を副隊長と思ったことはない。・・・ああそう怖い顔をしないでくれ。何も騙していたわけじゃないんだ。ただ君たちが誰ひとりとして理解していなかっただけさ。僕の本当の姿を」

 

握りしめた拳から血が滲み、日番谷の声は怒りで震えていた。日番谷の怒りが最高潮に達したことに気づき市丸を一足先にため息をつきつつ瞬歩で遠くへ避難。遅れて、自分の元まで冷気が届き、市丸は自分の判断が間違いでなかったことを知る。

 

日番谷の身体を覆うような氷の龍。背後に浮かぶ三つの花を思わせる氷の結晶。『氷雪系最強』の名を冠するその解放の名は──大紅蓮氷輪丸。

吹き荒れる吹雪をもろに食らっただろう藍染は無事か、と一瞬目を凝らすもののあの藍染惣右介が無事でない筈がない、とすぐに自分の安全を確保するよう距離をとって傍観の体制に入った。するとそのすぐあとに藍染が市丸の元に吹雪から逃げるように跳躍してくる。

 

「藍染・・・てめぇは俺が殺す」

 

殺意のこもった日番谷の声に、藍染は怯えた素振りも見せず満足そうに笑った。斬魄刀も抜こうとしない。完全に無防備な状態、この機を逃す手はない。

 

「ぅおおおおお!!!」

 

猛々しい雄叫びとともに、鋭い刀は藍染惣右介の身体を貫いた。・・・確かに貫いた、筈だった。

突き刺した直後に藍染の身体が氷始めて、最終的には彼の身体を完璧に氷結させた。・・・これも間違えがない筈だ。

 

「・・・な、に・・・?」

 

──だと言うのに、日番谷の身体はゆっくりとうつ伏せに倒れていき、肩から赤い何かが飛び散っていた。訳が分からない、というのが本音。後ろで藍染が何か言っていた気がしたが、それすら日番谷の耳には届かず。歪に笑う藍染の姿だけが脳内に張り付いていた。

 

 

 

 

 

■ ■ ■

 

 

──同時刻。場所は第三旧市街跡。

人っ子一人いない枯れ果てた土地に、彼らはいた。

 

「・・・ほんっとに、勘弁してほしいですなぁ」

 

肌がチリチリと焼けるような熱気と、正面から向けられる圧倒的な覇気に花厳は顔を引き攣らせて呟いた。迫り来る炎を結界や鬼道を上手く使って何とか生き延びていたが、防戦一方。傍から見れば花厳は元柳斎と互角に戦っているように見えるが、二人の力の差は歴然。花厳が焼死体になっていないのは、ひとえに彼の戦い方が上手いからだ。

これもいつまで続くか、といったところ。そもそも元柳斎は本気を出していない。卍解をしていないのがいい例だ。元柳斎がその気になれば花厳など一瞬で灰になってしまう。流石に尸魂界内で卍解するほど考えなしではないと思うが、その気にならないことを祈るしかない。

 

「助けに入ろうなんて馬鹿なこと考えるなよ、浮竹」

「っ、京楽・・・だがこのままでは」

「あそこに混じっても山じいの炎で燃え散らされるか、花厳くんの鬼道に巻き込まれるだけだ。・・・僕らの仕事は、別にあるだろう」

 

花厳の様子を見て耐えられないと言わんばかりに、飛び出そうとした浮竹を京楽が静かに手で制した。花厳は味方の多い場所では大して役に立たない。彼が得意なのは一対多。良くも悪くも威力が強すぎる彼の破道は仲間を巻き込むことの方が多いのだ。浮竹と京楽が手を出せない理由はここにあった。

 

『ぼくが元柳斎さんと戦いますんで、死んじまったらその後の尻拭いお願いしてもいいですかね』

 

第三旧市街跡に着いて、花厳が一番に言った言葉だ。彼がそう易易と命を落とすとは考えずらいが、京楽達の仕事は彼の尻拭い。頼まれたからにはそれを真っ当しなければならない。たとえそれで花厳が死闘を演じているのを見守る事しか出来なくなったとしても、だ。

 

 

手を出したくても、出来ない状況に浮竹がもどかしさを感じていると元柳斎の炎が遂に花厳を囲んだ。結界を張る余裕も時間もない。四方から襲う灼熱に京楽までもが焦燥感にかられる。

 

「花厳くんッ!」

 

呼んだ声に返事が返ってくることはなかったが、変わりに小さな声が聞こえた。

 

「──爆ぜろ」

 

花厳が錫杖を横に振るい、更地の一角で爆発が巻き起こる。爆風と砂埃が吹き荒れて、思わず二人は訳も分からずにとりあえず死覇装の袖で顔を覆った。砂粒が身体に叩きつけられる感覚に眉を寄せながら、浮竹は唖然とする。

 

「あの一瞬で同威力の破道をぶつけて、相殺したのか・・・」

 

人間業、というか死神業じゃない。少し威力を間違えたら自爆になってしまう。それに彼からは詠唱の声が何も聞こえなかった。詠唱破棄だとしても、何かしら必要な手順というのにだ。それをたった三文字、『爆ぜろ』だけで発動させるなんて聞いたことがない。

 

爆発の中心にいた花厳は煙を吸い込んだのか何度か咳き込んでいるものの、命に別状はないように見える。ホッと一息つくと、砂煙を手で払いながら悠然と元柳斎が歩いてくる。その元柳斎ですら、驚愕を声に含ませていた。

 

「遂に無詠唱にまで足を踏み入れたか。恐ろしい才じゃの」

「あっはっは、少し練習すりゃあ誰でも出来ますわ。難しいことじゃあない」

 

花厳はなんてことの無いように快活に笑ってみせた。難しいことじゃない、と彼は言ったがその領域に届くまでにどれだけの努力がいるのか。少なくとも尸魂界内には花厳ただ一人しか、無詠唱なんて化け物じみたことは出来ない。底知れない才能とそれと同等の血のにじむような努力。その結果が無詠唱なのだから。

 

だが不幸にも花厳が見せた無詠唱の破道は、元柳斎をその気にさせてしまったらしく。

 

 

「──ならば、儂も少し本気を出すか」

 

 

ざわ、と背筋が泡立って花厳が一度距離をとろうとした時、その声は響いた。

 

 

『護廷十三隊隊長、並びに副隊長、副隊長代理各位、鬼道衆大鬼道長・・・そして、旅禍の皆さん。こちらは四番隊副隊長虎徹勇音です』

 

 

緊急電信。恐らく鬼道を使用したのだろう。聞こえてきた声は大気を震わせるものではなく、頭の奥底で響くようなものだった。ならば、鬼道を用いる程の重要な情報なのか。というか旅禍にまで伝えてしまうような内容なのか。花厳はズリズリとすり足でゆっくり後ろに下がりながら、そんなことを考えた。

 

今から話すことは全て、紛れもない事実です。そう前置きされて伝えられた内容は──、

 

「・・・あー、そりゃあ旅禍だ敵だの言ってられませんわな」

 

五番隊隊長藍染惣右介の裏切り。そして日番谷冬獅郎、雛森桃の負傷。

 

一触即発だったその場は、出鼻をくじかれた形で何とも微妙な雰囲気が流れる。一番に口を開いたのは、これまた花厳だった。

 

「・・・ええと、とりあえず一時休戦って形でいいですかね」

「ふむ・・・」

「まあこんなことしてる場合じゃないよね、僕ら」

「・・・賛成だな。今の話だと朽木が危ない」

 

シリアスからの急展開に四人の爺は気まずくなりながら、満場一致で一時休戦となった。

 

 

 

 

 

 

■ ■ ■

 

 

「・・・こりゃあ皆さん、お揃いで」

 

再び舞い戻った双極の間。花厳や元柳斎、浮竹、京楽の四人がそこに着く時には各隊の隊長格、数名の侵入者達がいた。筆頭としては旅禍の数名、元五大貴族の一員志波空鶴ら、そして元二番隊隊長四楓院夜一だ。

 

既に裏切り者とされている藍染惣右介、市丸ギン、東仙要の三人は拘束されており事態の収拾はついているように見える。そうは言っても、今この場で油断している者は一人としていないが。

 

「終わりじゃ、藍染」

 

抜刀出来ないように、藍染惣右介の斬魄刀『鏡花水月』を押さえつけながら夜一は唸るような低い声で言い放った。ふっ、と少し口元に笑を浮かべる藍染の首には砕蜂の斬魄刀が押し当てられていた。逃げ場など何処にもないこの状況で笑う彼に不気味さを覚え、夜一は続けて言った。

 

「何が可笑しい」

「・・・いや済まない。時間だ」

 

時空が歪むこの感覚。ふと空を見上げて呟いた藍染の声を聞き取り、夜一は叫んでいた。

 

「離れろ、砕蜂ッ!!」

 

 

 

咄嗟のことに砕蜂は聞き返すことはせず、ただ絶対の信頼を寄せる彼女の言葉を信じてそこから飛び退いた。一拍遅れて天から降り注ぐような淡い黄色の光。それは藍染惣右介のみならず、次々と市丸や東仙を飲み込んで言った。

同時にこじ開けるようにして開いた黒腔(ガルガンタ)。そこから顔を覗かせるのは巨大な虚、大虚(メノスグランデ)だ。何体ものそれが発する淡い光は大虚が仲間を助ける時に放つ光。それらが指し示すのは、藍染惣右介はもう()()()()ということだ。

 

「ああ、言い忘れていたよ。・・・九花厳くん」

「・・・ご指名で?」

 

光に包まれて宙に浮かんだ藍染に名を呼ばれ、珍しく花厳は嫌悪感を隠そうともせず返事をする。満足そうに微笑んだ藍染はのぞき込むように花厳の金色に目を見つめた。奥底まで見透かすような視線に思わず一歩後ろへ下がると、

 

「──私は君を欲している。君の意見など関係ない。九花厳。君は私の元に来る、これは確定事項だ」

「・・・今自分で首を落としてくれたら、すぐにでもあんたさんの物になりますわ」

「はは。それは難しいな」

 

ひとしきり笑うと、藍染はかけていた眼鏡を外して髪をかきあげた。今、この瞬間、五番隊隊長藍染惣右介は死んだのだ。あそこにいる男は皆のよく知る藍染惣右介ではない。そう思わせる仕草だった。

 

 

「さようなら、死神諸君。そして旅禍の少年達。これからは───」

 

 

───私が天に立つ。

 

 




本編に関係ないオマケ

《本当〇あった怖い話を見ている時の鬼道衆の反応》

花厳「・・・え?あ、これがオバケなんで?」(そもそも気が付かない)

鬼道衆女子「わ、来たきた。こっわ。女の人だ」(普通にビビる)

鬼道衆男子「ギャァァァァアアア!!!!花厳さん!!花厳さん何処おおお!!??」(過剰に反応。この後花厳の周りに布団を並べてみんなで仲良く寝る)
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