ヤンデレは嘘が嫌い。

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 ホモじゃないから本当です。
 ※三十分クオリティなので内容は温かい目でご覧ください。


ヤンデレと結婚してぇ……

 エイプリールフール・ヤンデレ・一発ネタ。

 

 

 夜の十二時、決して電気の消えないオフィス。他の社員は軒並み退社し、既に机に向かってキーボードを打ち続けるのは自分のみ。机の上には会議資料が積み上がり、モニターには無数の付箋が張り付けられていた。

 今日も今日とて残業である、どこぞの誰かが盛大なミスをやらかしたせいで、そのしわ寄せが此方にまで及んでいるのだ。男――藤堂傑は珈琲を胃に流し込みつつ、必死に打鍵を続けていた。

 

「――今度毛を数本引っこ抜いてやる」

 

 口から出る愚痴は自分に向かって、さも当然の様に残業を強制したハゲ上司へのもの。最早死滅した毛根に慈悲は無い、諸共抜き去ってやろうと覚悟を決める。

 

「先輩、お疲れ様です」

 

 そんな思考を回していると、傑の直ぐ後ろから声が掛かった。振り向けば、眼鏡に黒髪の女性が立っていた。顔立ちは整っており、しかし能面の様な表情からは感情が読めない。髪は肩口辺りで切られており、その手には一枚のプリント。

 

「……あぁ、ありがとう」

 

 傑が仕事をサボタージュ出来ない原因は彼女にあった。

 この女性、美鈴は傑の部下であり、一年前に入社してから何だかんだで仕事上のパートナーと言える程の関係になった女性だ。

 その手腕は傑から見ても舌を巻く程で、自分とて負けていないという自負はあるが、同時にその内抜かれてしまうのだろうという予感もあった。

 部下の前で見っとも無い真似は出来ない、阿保らしいと思うならば笑うが良い、しかし傑からすれば部下に失望されたくない一心で残業に傾倒していた。

 

 傑が彼女からプリントを受け取ろうと、手を伸ばすと「日付、変わっちゃいましたね」と美鈴が言った。

 

「ん? ……あぁ、そうだな」

 

 傑がデスクのモニターを見れば、既に日付は四月一日を指している。ホワイト企業の筈なのだが、この時間まで残業させるとは中々鬼畜ではないか。無論、残業代は出るのでそこは良いのだけれども。

 

「――明日提出する書類があるので、サイン、お願いできますか?」

「……あぁ、勿論」

 

 美鈴がプリントを差し出し、傑は頷きながら受け取る。この完璧超人な後輩の事だ、ミスなどあるまい。そう思いながらさっさとサインを済ませようと考え、そのデスクに広げた紙に視線を落とした。

 

 

 婚姻届け

 

 

「………」

 

 傑は一瞬手を止め、思わず固まった。不自然に静止した手をそのままに、傑は一度大きく深呼吸を行う。それから眉間を揉み解し、一度天井を見上げてから再び紙に目を落とす。

 

 

 婚姻届け

 

 

「いかんな、遂に眼球疲労まで……」

 

 目の錯覚、働き過ぎによる幻覚症状。傑は大きな溜息を吐き、それから自嘲する様に笑った。後輩より先に先輩がダウンするとは、何とも情けない話である。まだまだ若いと思っていたが、自分もそろそろ歳か。

 見れば自分の名前以外の欄は全て埋まっているではないか――藤堂美鈴。

 

 

 ははは、気が早い奴だ、こいつめ。

 

 

「いや、おかしいだろう」

 

 傑は現実を見た。

 流石に現実逃避するには笑えない冗談である。

 

「……何か、ミスでも?」

「いやこれ、ミスがどうのこうのでは無く……」

 

 そもそも何か根本的な部分を間違っていませんか?

 そういう意味で振り向けば、美鈴は欠片も笑う事無く真顔で自分を見つめていた。その真剣な表情に傑は気圧され、再び婚姻届けに目を向ける。

 どこからどう見ても婚姻届けである、それともコレが会社の重要な申請書か何かだったりするのだろうか、いやそんな訳ねぇだろ。

 

「先輩」

「……ん?」

 

 目の前の現実が上手い具合に処理できず、もしやコレはどこぞのスパゲッティモンスターが仕掛けた罠なのではないかと四次元の彼方まで思考を飛ばしたところで美鈴が声を上げた。

 

「日付、見て下さい」

 

 美鈴の言葉に傑はモニターの日付を見る、四月一日。既に時刻は十二時を回り、傑は残業二日目突入だ。

 

「……これが何だ」

 

 傑は疑問の声を上げる、それに対し美鈴は「分かりませんか?」と首を傾げ、傑はいよいよ深く考え込んだ。四月一日、四月一日、自慢ではないが記念日やらイベントデーやらに自分は疎いのだ、そんなモノに現を抜かしている暇がないともいう。

 無い知恵を振り絞ってウンウン唸っていると、ふと一つの単語が思い浮かんだ。

 

「エイプリルフール……?」

 

 四月一日と言われて、最初に浮かんだのはソレだ。傑が声を上げると美鈴が、「正解です」と小さく笑った。つまりコレは――傑は手元の婚姻届けに目を落とす。

 

「……何だ、ジョークか」

 

 傑は知らず知らずの内に固まっていた頬肉を解し、笑い声を上げた。成程、成程、今日は嘘を吐いても良いだったのか。だとすればこれは、残業して根を詰めている先輩を案じた、後輩なりの気の利いたジョークだったという訳だ。

 漸く腑に落ちた傑は、後輩のお茶目な一面に意外さを感じながらも、笑って「中々驚いたよ、ははは」と称賛を口にした。

 最初真顔で突き付けられたときは半ば失神しかけたが、分かってしまえば可愛いものである。

 

「いやぁ、ははっ、笑った笑った、これで少し元気が出たよ」

 

 ははは、そう言って笑顔を振りまく傑を、美鈴は柔らかい笑みで眺め続ける。その無言の圧力は何か、言い知れぬ不気味さを傑に与え、彼は知らず知らずの内に声を潜める。おかしい、彼女は笑っている筈なのに謎のプレッシャーを感じる。

 

「はは、はは………」

 

 遂には笑いが乾き始め、傑は頬肉が再び硬くなるのを感じた。

 

「それで、明日には提出したいのでサイン頂けますか?」

「えっ」

 

 

 今日はエイプリルフールだけれど、ソレ(婚姻届け)が嘘とは言っていない。

 

 




 次年のエイプリルフール

「できちゃいました」
「えっ」

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