うちの女子バスケ部がヤバイ   作:小野芋子

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夏の暑さにも負けず

8月

夏真っ盛りのこの時期。

街のどこにいても蝉の声が聞こえるのでは、と錯覚するほどにミンミンだのシャーシャーだの煩い中、我らが帝光中学男子バスケットボール部は前大会優勝校とあって地方大会をシードで勝ち上がっていたため、その期間——つまりは他の学校が必死こいて試合を行なっている間、黙々と、まるで試合本番まで熱を保つように練習をこなしていた。

 

 

俺や灰崎、それに虹村先輩は地方大会では出場せずに全国大会からの出場となるため、地方大会のメンバー、言ってしまえば2軍の選手たちとは別の体育館で淡々とフットワークをこなしている。

朝方のこの時間帯は比較的涼しいと聞くが、蝉の声を聞くたび温度が上がっていくように感じるのは果たして錯覚なのだろうか?

お陰で暑さにやられてダレそうになる。最も、イマイチ練習に身が入らないのはやはり宿泊学習での青峰さんとの1on1が原因だろう。

 

 

今でも鮮明に思い出すことができる光景。

勝負は文字通り一瞬でついた。何度かフェイントを挟んだ青峰さんが桁外れのスピードで俺を抜き去ろうとし、そのボールを俺の手が弾き飛ばした。傍目から見ればあるいはそう映ったのかもしれないその勝負。

 

しかし当事者である俺は知っている、あんなのは何十分の一という確率が偶々あの一回で出ただけに過ぎないと。

なんせあの時俺はまるで彼女の姿を捉えられていなかったのだから。

無意識、それこそこれまでに積み上げていたバスケの勘とでもいうものが俺の腕を反射的に動かし、それが偶々ボールを弾いだけに過ぎないのだ。対峙したからこそわかる圧倒的な何か。無冠の五将と呼ばれる彼らでも、虹村先輩でも感じることはなかった、恐怖すら感じるプレッシャー。

 

時間の都合上あの一度しか試合はしていないが、果たしてあのまま続けていたら俺はどうなっていただろうか?想像したくもない。

 

それに何より、アレが彼女の全力だったとは思えないのだ。

手を抜いていたとは思っていない、そんなことが出来るほど器用な性格をしているようには見えないし、何より彼女のあの獰猛な笑みがそれは違うと訴えている。

 

だが俺の中の直感が囁く、彼女にはまだ上がある、と。無意識に封じていたのか、或いは未だ成長段階なのか、細かいことは分からない。けど、一つ分かることはある。

 

負けるわけにはいかない。

 

俺はプライドの高い男ではない。

それで済むなら平気で土下座だってするし、理不尽を受け入れることだって当然のように出来る。それに男女差別だって当たり前だがしない。男が女より優秀なのが当たり前だとか、そんな訳の分からないことは言わないし、思わない。

 

しかし今は思う、負けたくないと。

これはきっと男としてのプライド云々ではなくバスケット選手としてのプライド。ようやく知った選手としての誇り。

 

だから俺は負けたくない。そのために

 

「虹村先輩、後で1on1して貰っていいですか?」

 

俺はこの部で1番になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

10対6

圧倒的とは言えないが俺の勝ちであることに変わりはない。

この一度で虹村先輩の上をいった気にはならないが、これから先何度戦っても負ける気がしないのは、果たして何故だろう?

 

「お前が本気で俺とやるなんて、珍しいな?」

 

ビッショリとかいた汗を大きめのタオルで拭いながら、隣に座った虹村先輩は本当に珍しそうに俺を見る。

 

「俺はいつでも本気ですよ」

「なら言い方を変えよう。お前が全力で俺とやるなんて珍しいな」

 

まるで全てを見透かしたかのようなその言い方に、居心地が悪くなって目を逸らす。そらした先にいた灰崎はいつになく真剣な表情で俺を見ている。

 

「お前は無意識かもしれないが、俺たち、つまりは帝光中バスケ部員を相手にするときは何処か手を抜いている。大方、怪我させたら申し訳ないとか考えてんだろうな」

 

先輩が適当なことを言っているようには見えないが、いかんせん本当に自覚はない。そりゃ、大会を控えた先輩方に怪我をさせちゃ悪いという気持ちがなかった訳では無いが、それで手を抜くなんて舐めた真似を俺がするとは思えないのだ。

けど、確かに今日の勝負、今まで足枷となっていた『何か』が外れたような自覚があるのも確かではある。

 

「お前は気づいて無いかもしれないが、他校との試合の時と練習での試合の時じゃ、顔つきからしてまるで違うぞ?」

 

なんだその主人公設定。俺のキャラじゃ無いでしょ。

 

「敵と見定めれば容赦ないからな、レンは」

「相手の技奪っては指ぺろぺろしてる祥吾にだけは言われたくねえよ」

「それもそうだな。っておい!!指ぺろぺろって何だ!!」

「キャンディみたいに親指舐めてたろうが!!なに?甘い味でもするんですか?」

「そんな必死こいて舐めてねえよ!!ってか別に美味しいから舐めてる訳でもねえよ!!」

「え?うまいから舐めてた訳じゃねえのか灰崎?俺はてっきりそうなんだと思って監督に相談していたぞ」

「何してんスか虹村さん!!通りで最近監督の俺を見る目が生暖かい訳だよ!!」

「あっ、俺この後テツヤとスポーツ用品店に行くから先に上がりますね?」

「ああ、怪我ないようにな」

「ちょっ!!俺を無視すんな!!つーかなんだよそれ!!俺も混ぜろよ!!」

「お前がいると目立つから嫌だ」

「その通りすぎて何も言い返せねえ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

珍しく午後丸々オフとなる今日。

13時にマジバ(マジバーガー)で集合しそこで昼食をとり、そのまま駅近くにある大型デパートでバスケ用品を見て回って気に入ったものがあればいくつか購入しよう、と俺にしては珍しくテンションも上がってこのマジバに来たのはいいのだが、

 

「黒子っちーズって本当にシェイクしか食べないんすね」

 

この蛍光色は何故ここにいる?

 

 

 

 

俺がマジバに到着したのは大体集合時間の10分前。

テツヤの影の薄さを知っている俺は『待ち合わせしているんです』と言うわけにもいかないため、適当に注文し終え一通り店内を見渡し、テツヤがまだ来ていないことを知るや否や1番目立つであろう窓側の席に荷物を降ろし、ポテトを摘みながらテツヤの到着を待った。

 

 

5分もすればテツヤとその妹がマジバに到着した。

まあこの兄妹が一緒にいるところはよく見ているし、今日来ても不思議では無いとは思っていたため黒子さんがいること自体は特に問題はなく、むしろ男だけで買い物するよりも花があった方がいいため、俺としては大歓迎ではあった。

 

そう、ここまでは嬉しい誤算だ。

 

問題はその後入って来た偏差値低そうな蛍光色女にある。

 

現れるや否や『黒こっちィィィィイイイヤァァァアア!!!』などと奇声を発しながら黒子さんに突撃して来たため、反射的に右手に持っていたポテト(ミニサイズ、カリカリ)を投げつけてしまったが、今思えば不味かっただろう。こんなアホ女を撃退する為にポテトを一個を無駄にしてしまったことは今も後悔している。

割と楽しみにしてたんだよな、あのポテト。ロングサイズのふにゃふにゃも好みだけど。

 

 

話が逸れたな。

 

奇跡的にポテトが鼻に刺さった蛍光色女は、女子がしてはいけない顔で、女子がしてはいけない奇声を発しながら、女子とは思えないのだほどのたうちまわった。

ちなみにこの間黒子兄妹は静かにマックシェイクを飲みながら時々蛍光色女の様子を写真に撮っては悪い笑みを浮かべていた。

 

 

暫くの間のたうちまわっていた蛍光色女だが、いい加減煩かったのか黒子さんが腹にイグナイトをかましたことにより大人しくなった。

ってか生きてるよね?とても人が出すものじゃ無い音が出てたよ?

 

 

まあ結局生き返って回復した蛍光色は素知らぬ顔で席に座り、現在黒子兄妹と談笑(一方通行)している。

 

「いやーそれにしても本当に似てるっすよね。白鳥っちもそう思うっすよね?」

 

何その馬鹿そうなあだ名、是非ともやめていただきたいんですけど。何ならそのままUターンして家まで帰って欲しいんですけど。

 

「ははは、そうだね。っでお前誰?」

 

仲よさそうに話しかけて来るあたりかなりのコミュ力を持っているんだろうが、お生憎様流されて気づけば財布にされる、なんていうことにだけはならないように鋼のように硬い意思を持っているため、引くべき一線は引かせてもらう。

 

「酷いっすよ、一緒に合同練習もやったのにもう忘れたんすか?黄瀬涼子っすよ。ほら、モデルもやってる」

 

そう言ってどこからか取り出した雑誌を見せる黄瀬と名乗る少女、まあ確かに見てくれだけでいえば十分美人だし、モデルをやっていると言われても不思議では無い。

 

が、しかし、美人なはずなのに特に何も感じないのは何故だろう?

脳内虹村くんも顔を顰めるだけで準備運動すらする気配がない。何だったらテレビつけてNBAの好プレー集を見始めたくらいだ。

 

つまり、何が言いたいかといえばこの子は残念なのだ。

『何処が』と聞かれても分からないし、分かりたくもないが、とにかく残念なのだ。それはもう、黒子さんが視線すら向けないレベルでは。

 

「蓮さん、彼女は女子バスケ部が放し飼いしている犬でしかないので、いないものとして扱ってくれて構いませんよ?」

 

さらりと俺のことを名前呼びしながらついでに言葉のガトリングガンを放つ黒子さんは、それはもう綺麗な笑顔で言った。

 

グシャリ

 

どこかの誰かがマックシェイクを握り潰した音が聞こえ、更にさっきまでアホな雰囲気を纏っていたどこかのアホ犬は、俺の必死のBボタン連打も虚しく狂犬へと進化を遂げ、さらにいえば、こちらに背を向けてテレビをみている脳内虹村くんは背中で呪詛を語り出し始めたが、少し待って欲しい。俺は何もしてないよね?

 

いや、或いはこれはモテる男のさがなのか?だとしたらアレだな、何だか周りのこの雰囲気や殺気もモテない人間の醜い嫉妬として寧ろ心地よく感じ……ごめんなさい!!謝るから!!俺が何をしたわけでもないし、何に対して謝ってんのかも分かんないけど謝るから!!取り敢えず『赤司』と表示されたその携帯電話しまって!!警察には通報されてもいいけどそこにだけは通報しないで!!

 

 

 

 

結局黒子さん……テツナの『僕が誰をどう呼ぼうと僕の自由です』というセリフでことなきを得た俺は、現在予定していたデパート内で特にあてもなくぶらついている。

まあ、その代償が『僕のこともお兄さんみたいに名前で呼んでください』というのが辛いところではあるが、それで命が買えるのなら安いものだろう。

そのテツナは現在俺の隣で楽しそうに店内を見渡している。因みにテツヤと黄瀬は大和撫子よろしく数歩後ろを歩いている、のだが。

 

俺は知っている、テツナが俺のことを名前で呼ぶたびにテツヤの右手が徐々にイグナイトの形へと変わっていくことを

 

俺は知っている、テツナが俺のことを名前で呼ぶたびに黄瀬が手にもつご自慢の雑誌に、一つまた一つと切り傷のようなものが入っていることを

 

俺は知っている、テツナが俺のことを名前で呼ぶたびに脳内虹村くんのテレビ画面の中から髪の長い女が飛び出してきていることを。つーかさっきのは呪詛じゃなくて召喚魔術だったんですね。

 

 

とまあ、大和撫子ではなく常に背中を狙う暗殺者がぴったりと後ろをつけている、という何ともデンジャラスな状態で買い物を楽しめるはずも無く、視線こそあちこちに向けているがそれもあくまで鏡を利用して背中の様子を確認するためであり、今日何でここに来たんだっけ?と軽い記憶喪失に陥っている俺ではあるが、辛うじて逃げ出さないのは偏に

 

「蓮さん、あそこにあるバッシュとってください」

 

「はいはい」

 

テツナの雑用が楽しいからなんだろうな

 

「「チッ」」

 

あっやっぱ逃げ出してもいいですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




2年…夏の大会……青峰 うっ頭が!!
というわけでシリアスパート導入前のほのぼのでした。
なお主人公は殺伐とした空間にいる模様
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