「以上が、貴様らを集合させた理由だ」
アイリスディーナが言う。
呼び出された理由は「国連軍の戦術機部隊がポーランド領内で救援を要請しており、国連に"貸し"を作るため、戦術機を2機派遣する」というものだった。また下らない。テオドールは嘆息した。
「私が行きます」
ファムが言うが、アイリスディーナはそれを否定した。自分が出るとも言っている。あと1人は誰が指名されるのだろうか?
「エーベルバッハ少尉を指名する」
「はぁ?俺が?」
思わず抗議の声を上げてしまう。そりゃ当然だろう。クソの役にも立たない任務だ。わざわざ無駄にBETAに殺される確率を増やす、唾棄すべき任務。
しかし、ここで反抗したところでロクな事にならないのは理解している。大人しく参加するしかなさそうだ。
BETA支配領域のポーランド領内。その上空をテオドール機とアイリスディーナ機が飛んでいた。
「反応ありません。誤報だったんじゃないですか」
さっさと帰りたい。その思いから出た一言に、アイリスディーナは予想外の言葉を返す。
「テオドール・エーベルバッハ少尉。甘ったれるのもい加減にしてくれ」
「甘ったれてるだと?」
「そうだ」
自分の仕事はこなしている、と返すも、その言葉とそれに込められた険は変わらない。
「なぜアネットを見捨てた?」
「・・・。」
「戦争神経症の衛士は邪魔ということか?」
「俺は・・・」
二の句を次ぐ前に、アイリスディーナが続ける。
「その結果、イングヒルトも見捨てた。自分の身しか守れない衛士に、衛士の資格はない」
その言葉は、第三者が聞けばただの説教にも聞こえただろう。
しかし、重い過去を背負っているテオドールにとって、その言葉はただの説教ではなかった。
よりにもよって、お前なんかに。
「資格がないだと!?」
怒鳴る。もちろんそれで済むような生温い怒りではない。
「アンタにそれが言えるのかよ!?アンタがやったことも知ってるんだぞ!?アンタがシュタージの・・・ッ!」
言い切ろうとして、留まる。熱した鉄を氷水に浸したような。一気に冷静さが戻ってくる。
「どうした?続けないのか」
アイリスディーナは盗聴など知らぬ顔で言う。
「私がシュタージの密告者だと言いたいのだろう」
聞いているこっちも肝が冷える。まぁ、たとえ"聞いた"だけでもシュタージは許してはくれないが。
と、そこで電子音。
「私以下の人間になりたくないのなら、衛士としての誇りを胸に、自分の任務を果たせ!」
アイリスディーナは一気呵成に降下していく。先程の会話の中で怒りと恐怖にごちゃごちゃにされた今の精神状態のせいで反応が遅れた。
アイリスディーナ機を目で追うと、その先に単独でBETAと交戦しているF-4が見えた。
「エーベルバッハ少尉。BETAは私が引き受ける。貴様はあの衛士を救え!貴様が衛士だという証拠を見せてみろ!」
「くそぉ!」
わけもわからず、ただ軍人としての本能が機体を動かす。
戦術機のコクピットは、緊急時を考慮し外側からも開けられるようになっている。
しかし、戦術機に乗ったままでは解除できないため、生身でハッチまで取り付き、コードを入力してハッチを吹き飛ばすという手順がいる。
自機から出て救援を要請していたであろう戦術機まで走る。
途中戦車級がにじり寄って来たが、アイリスディーナが当然のように撃破。相変わらず凄い腕だ。
悪態をつきながら走り、F-4の脚をよじ登って胸部までたどり着く。コードを入力してハッチを吹き飛ばし、中をのぞき込む。
中にいたのは、少女だった。テオドールより少し年下だろうか。
その少女に今は亡き妹リィズの面影を見る。
しかしすぐにそれを払い除け、気を失っている彼女を抱えて出来るだけ速く自機に戻る。
来た道を引き返し、基地に戻る。助けた衛士が目を覚ますのは、もう少し先のことだ。
途中、アイリスディーナの発言が頭をよぎる。アイリスディーナに先ほどの発言を咎めた際、彼女は自信満々に言った。その点については任せておけ、と。
なんの根拠もない。しかし、今の自分には彼女に従うほかなかった。