これにはオイラもビックリ。
まぁ前回の話で区切るのはちょとアレだったんで投稿しておきます。
セシリアが可愛く思えてきたよ!
※一部修正しました。
ザザー
「はぁ……」
シャワールームに人影が一つ。彼女はどこか茫洋とした瞳でただただシャワーの暖かさに身を委ねていた。白磁のように美しい肌も今は病的なほどに白く見える。
いや、実際にそうなのだろう。彼女は自身が今まで築き上げてきた生き方や価値観が粉々に砕かれたのだから。
彼女の名はセシリア・オルコット。
イギリスの国家代表候補生で、BTシステムを搭載した専用機「ブルーティアーズ」を所有する若き秀才。
また生家はイギリスの名門貴族で、幼い頃に両親を亡くしてからは悪意や金欲にまみれた人間から資産を守るために自身を磨き上げた努力の天才という一面も持っている。
そんな彼女は男というものが嫌いだった。自分から資産を奪おうとする男や自分にへりくだってくる男、さらには自分に肉体関係を迫ってくるものもいたのだ。
男が嫌いになるのも無理はない。彼女の中にある男という生き物とは「媚びへつらってくるくせに隙を見せると一斉に群がる非常識で卑劣な下等生物」だった。
もちろんそんな男ばかりではないことは彼女も知っている。したたかで精神が非常に強かった父親がいたからだ。だが彼女の周りには彼女自身の立場上、汚い大人が集まりやすかった。
だから彼女は男を蔑んだ。蔑むことで自身を鼓舞し、決して下に見られぬよう努力したのだ。
親しかった人間が裏切った。
手のひらを返すかのように敵にまわる両親の友人たち。
敵はいくらでもいた。
セシリアはそれらと敵対した。
歯向かう者は老若男女関係なく徹底的に叩きのめした。
時には命を狙われることもあった。それでも彼女は歩みを止めなかった。
利用できるものはなんでも利用した。ISもその一つだった。
ISの適性がAだったことが幸いし、彼女に新たな可能性が示された。国家代表になることだ。
国家代表とはその国の女性の代表選手である。最強の兵器にもなりうるIS。国内最強のIS操縦者だけが得られる肩書き。
つまり女として最高峰の地位を得たと言っても過言ではない。
セシリアはその頂きに至ろうと努力を続けた。頂点に君臨できたら、自分は男に見下されることもなく、また資産を狙う人もいなくなる。幼い彼女はそう考え、ただひたすらに努力した。
適性が高かったのが幸いし、努力すれば成果は出た。時折スランプに陥ることもあったが、さらに努力を重ねた。そして代表候補生になった。
全ては両親のために。全ては見下されないために。全ては————
————————この努力を誰かに認めてもらうために。
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負けた。それも無様に。
今の私にはそのことしか考えられなかった。
織斑一夏。世界初の男性IS操縦者。
そして私を倒した男。
確かに油断はしていた。いくら男性がISを動かせたからって所詮初心者。それどころかISに触るのは3回目だという。初心者というよりも素人と言った方が正しいか。
確かに油断はあった。だが途中からは本気で素人の相手をした。
だが負けた。一体なぜ?どうして?
考えてみれば、男性だから、素人だからといって弱いと決めつけていた自分が原因だ。
ISはロボットというよりもパワードスーツに近い。パワードスーツと違う点は馬力と空を飛べる点などなどあげればきりがない。が、共通点は「体の延長」のようなものだということだ。
つまり、生身の身体能力が高ければ高いほど強くなる、ということ。
彼は男性だから身体能力が高いのだろうか。
いや、それも原因の一つだが直接の敗因ではない。
本当の敗因はなにか。
私は恐れたのだ。彼の目に宿った意志の強さに。
試合が始まる前、彼がピットから出てきた時にこちらを睨みつけた、あの彼の瞳に。
「勝たなきゃならない理由ができた」
手短に彼は私に告げた。その時から私は負けていたのかもしれない。
◆
あまりの強い眼差しに私はたじろぐ。
—こんな“男”、私は知らない!これが“男”だなんて私は認めない!!—
心の内に湧いた焦りを抑え、いつも通りの“男”に接する態度で彼に言う。
「逃げずによく来ましたわね。褒めて差し上げますわ」
彼は何も言わない。ただこっちを睨みつけるだけ。
この女尊男卑の風潮の中、彼のような男は見たことがなかった。
「無視ですか。まぁいいですわ。ならばあなたには無残に負けて、皆の笑いものになってもらいましょう。二度とISに楯突かないように!」
手にしている銃をあの男をめがけて撃つ。このぐらいの距離で外す私ではない。確実に当たったと思った。
だが実際には掠りながらも飛んで避けて見せた。若干フラついているが、あれは飛ぶ感覚に慣れていないためだろう。もし地に足を付けていた場合、完璧に避けたハズだ。
まぐれに違いない。私は疑念を払うように更に撃った。
撃つ。撃つ。撃つ。撃つ。撃つ。
避ける。避ける。避ける。避ける。避ける。
まただ。しかも全て避けきった。今度はまぐれじゃない。
この代表候補生の私の攻撃を、あの男は避けてみせた。
「あなたは一体なんなのですか!?」
思わず視線を手元にやってしまった。わからない。彼のことが全くわからない。男なのになぜこんなに強い?
「隙だらけだぞ」
視線を戻すと凄まじい速度でこちらに突進してくる彼が。
「クッ」
全力で避けるが完全に躱しきれなかった。
彼の斬撃がかする。
結構危なかった。彼が声をかけてくれたからなんとか避けれた。
その事実は私の怒りを掻き立てる。
「なかなかやりますわね。では私もそろそろ本気であなたを迎え撃ちましょう!」
素人相手使うことはないと思っていたビット。だが今ここで使うことにする。
今までの男たちと同じように“叩きのめす”ために。
だが。彼はもしかすると他の男性とは違うのかもしれない。私はそう思い始めていた。
「行きなさい!ティアーズ!!」
ビットが舞う。私はビットを動かしている間動くことができない。ビットの制御のためだ。だが私が動けないなら、その分ビットを動かせば良い。
「クソッ、これはファンネル!?お前はサザビーだったのか!?」
織斑一夏が吐き捨てるように言う。何を言ってるかはよくわからないが。
ビットたちが素早く動いて彼を囲み攻撃し始めた。
彼はほとんど避けているが、やはり6機のビットをよけるのは困難なようで時折ダメージを受けていた。
いつもなら4機のビットで攻撃し、2機のビットは不意打ちに使用したりするのだが、今回は全てのビットで攻撃することを選んだ。
自分では気づかなかったが、私は彼が怖かったのだ。近づかれるのが怖かった。彼は私の今までの概念を覆すかもしれない存在だったから。
そして、この選択が仇となる。
「えっ」
————。
アリーナに一陣の風が吹く。
織斑一夏はまるでその風に合わせたかのように、ごく自然な動きでビット6機を一凪で全て破壊した。
あまりに自然な動きだったために反応が遅れてしまった。
「行くぞ、オルコット」
彼が刀を構え、こちらに飛んできた。だが私は完全にパニックになっていた。
私のISの特徴とも言うべきビットを全て失った。それもまとめて、一撃で。
そのことは私にとってとても認められない事実だったのだ。
迫ってくる彼の無機質な剣を避けることができず、ライフルで斬撃を受け止める。
ギリギリで受け止めれたが、彼は既に次の攻撃を繰り出そうとしていた。
私の目の前で、彼が呟く。
「モッピーブレンド」
◆
気がつけばライフルを真っ二つに斬られ、シールドエネルギーが尽き、ISが自動解除されていた。
あとで教えてもらったのだが、織斑一夏は観客が惚れ惚れするような乱舞をはなったらしい。本人曰く乱れ斬りらしいのだが、今回の試合の記録映像を実際に観てみるとまるで日本舞踊を舞っているような美しい剣舞だった。
試合は完全に私の敗北だった。
今まで味わったことのないほどの大敗だった。
彼の強さに唖然とした。私が何年もかけて磨き上げていた操縦技術を、ISに乗るのが3回目の素人、しかも男に負けたのだ。
そこからはあまりよく覚えていない。どうやってこの更衣室のシャワールームに辿り着いたのかも覚えていない。
「はぁ」
先ほどからため息が止まらなかった。悔しかった。悲しかった。だが、それとは別に、新たな感情を抱いてしまったことを自覚したからだ。
私を下した唯一の男。世界初の男性IS操縦者、織斑一夏。
両親が死んでからというもの、ずっと一人で敵と戦ってきた私、セシリア・オルコット。
闘った私だからわかる。彼のそこの知れない強さに私は惹かれた。
—彼ほどの男なら私の事をわかってくれる、努力を認めてくれる—
—私を隣で支えほしい、私と一緒に戦って欲しい—
こんな感情を抱いたのは初めてだった。
「織斑一夏…」
彼の名をそっと呟く。胸がゆっくりとだが暖かくなってくる。
やはり私は彼に恋をしてしまったようだ。
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自分の気持ちに気付くと体が軽くなったような気分になった。
さっさとシャワーを終えて、織斑一夏に謝りに行こう。
ふと鏡を見る。鏡には今まで見たことがない程に幸せそうな表情をしている自身が写っていた。
「ふふっ」
こういうのも悪くない。
そんなことを考えていた時だった。
私の左肩になにかトロッとした液体がかかったのだ。
思わず肩に触れる。手についたそれを匂いでみるがよくわからなかった。
だが、背筋に薄ら寒いものを感じた。
ピタッ
「ヒィッ」
今度は首筋に垂れてきた。先ほどから寒気が止まらない。
上を見上げれば済むことだが、生憎私はこの手のものはかなり苦手である。
もし上に何かいた場合、確実に気絶する。それくらい嫌いだ。
だが周りに誰もいない。延々と垂れてくる謎の液体。やはり私が上を確認するしかないだろう。
意を決して勢い良く上を向く。そこには—————
「セシリアペロペロ」
————この上なく気持ち悪い形相をした、それでいてどこか見覚えのある女生徒がヨダレを垂らしながら、天井にへばりついてこちらを見下ろしていた。
「うぇひひ」
私は呆気なく気絶した。
★試合中のイッピー
イッピー「勝たなきゃならない理由ができた」(おっぱいレボリューション!)
モッピー「さすがイッピー!下心で強くなるなんて!」
★試合後のモッピー
モッピー「金髪DQNの部屋に行ったんだ。そしたら同室の子から金髪DQNじゃなくてセシリアって名前だよーって教えてもらって。
やっと原作キャラだって思い出したらもう愛情が止まらなかったんだよ。しかもシャワー浴びてるし。美人だし。かわいいし。つい覗いちゃったんだ!
反省も後悔もないぜ!てへぺろ!
あと、ごちそうさまでした!」
チッピー「お前は気絶してるオルコットに何をしたんだ…?(戦慄)」
これでストックは尽きました。
次話投稿まで気長にお待ちください。