「マスター! 配達終わったわ!」
「あ、アビー。お疲れ様~」
「ちょっと遅れてしまったけど、ちゃんと出来たわ!」
「うんうん。偉い偉い」
昨日に引き続きトランプで遊んでいるオオガミ達のもとに門を使って入ってくるアビゲイル。
オオガミに頭を撫でられ満足そうに笑った彼女は、そのままオオガミの膝の上に座ると、
「それで、何をしていたの?」
「全力でババ抜き」
「全力でババ抜き……?」
「いや、普通に最下位が全員にジュース一本おごるってだけだぜ? 単純にスリル無いよなぁってイアソンが言い出したことだし、ここまで五連続イアソンが最下位だ。つまり言い出しっぺ以外誰も損してないわけだな」
アンリの補足を聞いて、納得するアビゲイル。
すると、ロビンがニヤニヤと笑いながら、
「いあ~、損してるねぇ、イアソン?」
「は? ロビンお前それ面白いと思ってんのか。この野郎」
「最高に面白いと思ってる。大富豪でふんぞり返ってたときが懐かしいねぇ。どんな気持ちだい?」
「最低最悪の気分だわクソが! 次は勝って土下座で謝らせてやる……! もう一回だ!」
「おいおいイアソン。貯金あるのか? 足りないとかやめろよ?」
「そんなに無いわけじゃねぇよ!? オリオンお前、俺をどんなヤツだと思ってんだ!?」
「いや、やりそうなぁ……と」
「流石にそこまで落ちぶれてないわ!」
「ん。まぁ、持ち金があるかとかはあんま気にしてないんすけど、もう一回やるなら、えっと、アビゲイルさん? はどうするんです?」
イアソンによって脱線していく会話をゲームに戻すマンドリカルド。
ようやくこのメンバーに慣れてきたのか、それとも無限に会話が脱線し続けるのを悟ったか、すっかり会話を元に戻す役目になっていた。
そして、話を振られたアビゲイルは困ったように笑うと、
「えっと、私は見ているだけで楽しいから大丈夫です。それに、その、負けてしまっても皆様にジュースをお渡しできないから……」
「いやいやいや。流石に子供に要求するほど畜生じゃねぇよ!? おいイアソン。お前も何か言えって」
「あ? なんか問題あるか?」
「さては想像以上にクズか……!?」
「は? ……いや待て。絶対何か勘違いしてる。まず意見を聞かなきゃならないのはそこの保護者からだろ? んで、そいつが言わないなら問題ないだろうが!」
そう言って、オオガミを指差すイアソン。
オオガミは数秒首をかしげ、
「あ、そうか。現状保護者扱いなんですね。良いですとも。アビーが負けたら俺が払おうじゃないか。ただしイアソンが負けたらアビーに二本ね」
「なんで俺だけ!?」
「代わりに俺のヤツは無しで良いよ。もう五本分の権利は貰ったし」
「それ、お前の分の権利が移譲しただけじゃないか……!」
「うん。そういうこと。で、アビーはやる? 本当にやりたくないならやらなくても良いけど。あぁ、財布は気にしないで。未だにこの前のボックス貯金が消えてないからいくらでも払えるよ」
「え、えっと……その、じゃあ、やらせてもらうわ。よろしくお願いします」
「よし。じゃあ、こっちは二人で一チームだから配る枚数は変えなくていいよ」
「うっす。じゃあ配りますよ~」
そう言って、マンドリカルドはトランプを配り始めるのだった。
平和な賭け事は良くあること。
ところで、既にイアソンとロビンの関係性が固まりつつあるんですが。性格真逆の喧嘩仲間ってわりと好き……
次のデート回
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王道のエウリュアレ
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メルトしかあるまい
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技術部二人と散歩でもいいのよ
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いいから全部だ