「エウリュアレ。今一人?」
「あらオオガミ。なぁに? 誰か探してるの?」
廊下を走ってきたオオガミに、にっこりと微笑んで聞くエウリュアレ。
オオガミは一瞬言葉を詰まらせるも、
「まぁ、そんなところ。エウリュアレは?」
「私は人を待っているの。誰かが私に用があると思って」
「つまり一人?」
「えぇ。それで、誰をお探しかしら?」
「あぁ、えっと、とりあえずメルトかな。どこにいるか知ってる?」
そう問われたエウリュアレは笑みを凍らせてオオガミを見る。
だが、冗談で言っているようには見えない。
なので、目を逸らしながら、
「そう……ね。今は自分の部屋でフィギュアを見ていたはずよ。急いだら?」
「ありがとう。それじゃ、また後でね」
「えぇ、それじゃあね」
そう言って、別れる二人。
オオガミが走り去ったあと、エウリュアレはしばらく呆然とし、やがて宛もなく歩き出す。
* * *
「ん? どうしたんじゃエウリュアレ」
「あれ、こっちに来てます? おかしいですね。私の予想では今日はセンパイの部屋にこもってるものかと」
気付けば来ていたノッブとBBの工房。
二人が不思議そうな顔をして聞いてくるので、エウリュアレも不思議そうに首をかしげ、
「なんでそんな予想になるわけ?」
「え、いや、センパイから何も言われてないんですか……?」
「何よ……さっき会ったけど、メルトの場所を聞かれただけだもの。何もなかったわよ?」
「「あちゃ~……」」
「謎が深まるのだけど……」
そう言って、ため息を吐くエウリュアレ。
ノッブとBBは顔を見合わせると、
「確認なんですけど、特に何も貰ってないんですよね?」
「貰ってないけど……え、何か貰ったの?」
「あ~……これは完全にセンパイが悪いですねぇ……」
「そうじゃなぁ……儂としてはマスターの部屋で待つのが一番の気がするんじゃよなぁ……」
「という訳で、ささっと向かってください。ここに留まってる場合じゃないですよ」
「えぇ……せっかく来たばっかりなのに……」
「ダメです。早く向かってください」
「うむ。マスターに会ったらガツンと言っておくんじゃなぁ」
「え、ちょ、どういうことよ……?」
だが、疑問に返答はなく、工房から追い出されるエウリュアレ。
追い出されたエウリュアレは頬を膨らませ、
「何よっ、もう! 良いわよ、戻るから!」
そう言って、歩き出す。
* * *
「あら、エウリュアレさん! ごきげんよう!」
「ごきげんようアビー。ふふっ、こんな挨拶するの、わりと久しぶりね」
廊下でバッタリと会ったアビゲイルに挨拶をするエウリュアレ。
「えぇ、本当に。それで、どちらまで? マスターはさっき食堂にいたのだけど」
「部屋に帰るのよ。BBもノッブも私を追い返されたし」
「そうなの? なんでかしら……」
「さぁ? それで、機嫌が良いみたいだけど何かあったの?」
「あ、そうなの! エウリュアレさんももう貰ってると思うのだけど、マスターさんがホワイトデーのプレゼントだって言って送ってくれたの!」
「ふぅん……?」
嬉しそうに言うアビゲイルと、一瞬で不機嫌になるエウリュアレ。
それを感じたアビゲイルは咳払いを一つし、
「そ、そういえば、マスターさんが今エウリュアレさんを探しているって聞いたわ。お部屋で待っていた方がいいんじゃないかしら」
「まぁ、それもそうね。それじゃあね、アビー」
「え、えぇ。また会いましょう、エウリュアレさん」
そう言って、スタスタと走り去っていくアビゲイル。
エウリュアレはため息を吐くと、
「本当に私を探しているのかしら……」
そんな事を呟いて、部屋に向かう。
* * *
「結局、なんで部屋で待ってろって言われたのか分かんないわね」
ベッドに寝転がり、ぼんやりと天井を見るエウリュアレ。
すると、扉が開き、
「ここにいたのか……伝え忘れたからどうしようか考えてたんだけど」
そう、暢気な声が聞こえてくる。
エウリュアレは起き上がると、声の主を睨みつつ、
「遅いじゃない。探すつもりあったの?」
「あはは……一応全力で探してはいたよ。見つからなかったけど」
そう言って、部屋に入ってきてベッドに腰かけるオオガミ。
エウリュアレもその隣に座り直すと、
「で、私を後回しにした理由は?」
「そりゃもちろん、その後の時間を全部使えるじゃん?」
「……言うわね。気に入ったわ」
そう言って、機嫌を良くする。
オオガミは楽しそうに微笑むと、
「それじゃ、これをどうぞ」
「あら、てっきり無いものかと」
「冗談。用意してないわけないじゃん?」
そう言いながら渡されたのは、瓶詰めのキャンディー。カラフルで少し歪なそれを見たエウリュアレは、
「……手作り?」
「もちろん。むしろそれ以外用意するとでも?」
「それは確かに。貴方はそういう人よね。それじゃあありがたく貰うわ」
そう言って、エウリュアレはキャンディーを受け取ると、そのままオオガミの膝の上に頭を乗せ、
「それじゃ、しばらくこのままね」
「好きなだけどうぞ」
そう言って、オオガミはエウリュアレの頭を撫でるのだった。
たまにはこんなのも。甘い……かなぁ……?
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王道のエウリュアレ
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メルトしかあるまい
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技術部二人と散歩でもいいのよ
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いいから全部だ