「マスター。入るぞ」
「はいは~い」
そう言ってバラキーが部屋に入ると、エウリュアレがオオガミの膝を枕にして寝ている状況だった。
それを理解すると同時にバラキーはため息を吐き、
「昨日は逆だったとカーマから聞いたのだが」
「何てこと話してるんだカーマは」
「吾が言うのもなんだが、結構話すぞ? 吾が食べている間暇なのかずっと喋っているからな」
「相当喋るね?」
「うむ。まぁ、汝も同じようなものだが」
そう言って指差されたオオガミは、理解出来てないかのように首をかしげると、
「そんなに喋ってる?」
「うむ。かなり喋っているとも。それに感化されてか、周りが喋っているから分かりづらいだろうがな。メルトに限って言えば、汝のおらぬところでは滅多に喋ってないからな」
「いやいやまさか。そんなわけないでしょ」
「むぅ、疑うならそれでもよいが、BBの監視カメラの履歴を見てもよいと思うぞ? 本当に喋ってるのを見ないからな……」
「そんなにか。結構色々言われるんだけどな……不思議だね」
「不思議でもなんでもないと思うが……まぁ、汝がそう言うならそうなのだろうよ」
そう言って、首を振るバラキー。
すると、何かを思い出したようにバラキーは顔を上げ、
「そうだそうだ。吾は話をしに来たのではなく本を借りに来たのだった。最近ずっとカーマが読んでいてな。図書館にあると思ったら無くて、カーマに聞けばここだというではないか。というわけで借りていくぞ」
「ちゃんと返してね?」
「吾は約束くらい守る。下らぬことはせんわ」
そう言って、カーマが借りていったシリーズから一冊借りていくバラキー。
「ではまたな」
「うん。ばいば~い」
手を振ってバラキーを見送り、改めてエウリュアレを見るオオガミ。
「いや、それにしてもよく寝てるね……完全に熟睡してるじゃん……」
そう呟いても、言葉は返ってこない。
オオガミはため息を吐くと、扉の方を向くと、どこか呆れたような顔をしているメルトがそこに立っていた。
「……膝の上は無理だよ?」
「じゃあ左側を使わせてもらおうかしら」
そう言って、オオガミの左隣に座って寄り掛かるメルト。
完全に動けなくなったオオガミに、メルトはニヤリと笑いながら、
「どう? 幸せで動けないって状況は」
「何度目でも慣れないし幸せだよ?」
「……対処が慣れてるそれなのが気に入らないわね」
「緊張が一周回って冷静になった感じ」
「そう……まぁ、どうでもいいけど。飽きるまでこのままね」
「あ、マジすか」
そう呟くオオガミの声を無視して、メルトはオオガミに更に体重をかけるのだった。
メルトはなんというか、こう、寡黙なイメージ。どちらかと言えば寡黙というよりは興味がないってのが強いとは思うんですけども。