「というわけで、今日はパン作りです」
「いいから教えてください」
「さっさと教えてください」
「当たり強いなこの生徒」
ジト目で当然のような顔をして言ってくるカーマとアナに、頬を引きつらせるオオガミ。
だが、この二人に教えることで、遠くで笑いながら手を振っている二人の食問題を軽減できるなら、それはやはりやるべき戦いなのだと腹をくくり、
「それじゃ、やっていくよ」
「「はい、よろしくお願いします」」
そうして、料理の授業が始まる。
* * *
「なんでアイツ、厨房立ってんだ?」
「おいおいイアソン。もしかしてマスターの料理のスキルが妙に高いっての知らねぇのか?」
「え、マジかよ。知らなかったわ。マンドリカルド。お前は?」
「あ、え、オレっすか。まぁ、知ってたっすけど……」
「え、マジで知らなかったのオレだけ? おいおいそんな常識あるか普通……」
そう言って、奇妙なものを見るようにオオガミを眺めるイアソン。
ロビンは不思議そうに首をかしげながら、
「言っとくけど、マスターが持ってくる菓子は大抵手作りだぜ? 知らないだけで結構食ってると思うんだが」
「そうだったのか……いや、通りでいくら探しても食堂には無いはずだ……手作りなら生産も限られてるからな……」
「いや、大半をあそこの女神が食ってるからだが」
そう言って、離れたところにいるエウリュアレを指差すロビン。
イアソンはそれをぼーっと見ながら、
「は? なんだそれ。女神だからってなんでもしていい訳じゃないだろ」
「例外はある。このカルデアのエウリュアレは普通に厄介だぞ」
「あ~、オレも気付いたら死にかけてたことありますね……マスター関連には敏感っすよ」
「な、なんだよ……目が笑ってないんだが……本気か? 本気で言ってるのか? あんなひ弱そうな女神に?」
「まぁ、姉妹揃えばヘラクレスを完封するくらいには」
「宝具当たったら即死って考えればいいんじゃないっすかね」
「……オレのヘラクレスが負けるわけ無いだろ何言ってんだお前ら」
「オタクはオケアノスでやられたのを覚えてないんすか」
「はぁ? 偶然勝っただけだろ。ヘラクレスが正面から戦えば負けるはずがない」
「いや確かにそうだろうが、実際殴り倒してたからなぁ……」
「いやいや、あんな貧弱な女神風情がヘラクレスに勝てるわけ無いだろ。少し考えればわかることだろ?」
「いやまぁ、聖杯組じゃなきゃそう言えるんだがな」
「聖杯9個っすよ」
「……いやまだヘラクレスが勝つわ。証明してやる」
「あ、おいバカっ!」
そう言ってエウリュアレに向かっていったイアソンは、ものの数秒で言葉だけでボロボロにされて帰ってくるのだった。
イアソン様……エウリュアレ相手に耳栓程度の装備もなしに挑んじゃダメですよ……魅惑の美声は伊達じゃないのだ……