「あ、マスターじゃん。伯母上知ってる?」
「ノッブなら今も夢の中だけど」
「なにそれこっわ。え、昨日からじゃん」
廊下で神妙な顔をする茶々。
その後ろからアナスタシアが、
「あら、珍しいわ。マスターが一人で歩いてるだなんて。槍でも降るのかしら」
「そうじゃん。よく見ればマスター一人とか、天変地異の前触れ!?」
「一人でいるだけでそこまで言う?」
「言う言う。だってエウリュアレかメルトのどっちかはいるじゃん!」
「たまに人は違うけど、でも大抵誰かと一緒じゃない」
「ふむ……そう言われると一ミリも否定できないね?」
そう言って、首をかしげるオオガミ。
茶々は呆れたような顔で、
「まったくマスターったら。いつまでもエウリュアレとメルトがいると思ってちゃダメ! 女心と秋の空! ちゃんと覚えておくんだよ!」
「あら茶々。それ、どういう意味なのかしら」
「女の子の心は秋の空みたいにすぐ変わるってこと! 女神様だからって永遠に変わらないとか無いんだからね!」
「……その言葉スッゴい心に刺さる。何気ない散歩が俺の心を傷付けた……」
「マスター弱すぎ! こんなんでこれから先大丈夫なわけ? 茶々スッゴい心配なんだけど。んもぅ、頼りないなぁ」
崩れ落ちたオオガミを見ながら、腕を組んで不安そうな顔をする茶々。
アナスタシアはオオガミの前にしゃがんで、どこからか取り出した木の枝でオオガミの頬を突っつきながら、
「秋の空というのがどれ程変わりやすいのかは知りませんけど、私は近くにいてくれるだけで十分だと思うわ。貴方は違うのかしら」
「……あぁ、そうだよね……女神様からしたら一時の気まぐれ。刹那の出来事に過ぎないのかもだけど、だからこそ一緒にいれるだけがありがたいって言うのもあるのか……うん。どうしてエウリュアレがベッタリくっついてきてるのか分かった気がする。それじゃあ部屋に帰るね! また後で!」
「頑張ってねマスター!」
「いってらっしゃい」
そう言って走り去っていくオオガミを見送る二人は、
「……伯母上死んでたりしない? エウリュアレって、最近照れ隠しで殺しに来てるイメージだし、寝てるメンバーがそう言うのを根掘り葉掘り聞き出そうとするメンバーなんだけど」
「気になるところだけど、私の直感が関わっちゃいけないって言ってるの。マスターのセリフでいくつか気になってるのだけど、それを聞いた瞬間殺されそうなのよね……」
「茶々も止めとけって、茶々の中のゴーストがささやくの……」
そう言って、二人は大きなため息を吐くのだった。
裏でお菓子難民になっている鬼がいることを、このときは誰も知るよしはないのだった……