「……メルトはお風呂上がりでも髪の毛サラサラだよね」
「そりゃ、ドレインすれば簡単だもの。本来なら入らなくても清潔だけど、入った方が気持ち的にいいじゃない」
「確かに。気持ちは大事だね」
そう言って、特に絡まってもいない絹のように滑らかな触り心地のメルトの髪に櫛を通すオオガミ。
昨日と違ってエウリュアレより早く戻ってきたメルトを不思議に思うも、特には何もせず、ただ頼まれたままに髪を梳いていた。
「なんというか、メルトの髪を梳かすのは珍しいよね」
「頼むようなことでもないもの。でも、エウリュアレのを見ていると、やっぱり誰かにお願いする方がいいように思えて。まぁ、リボンはいつも結んでもらってるけど」
「リボンを結ぶのと髪を梳かすのは別物だし。でもまぁ、こうやって触る度に思うけど、やっぱり髪質ってそれぞれ違うものだね」
「あら、今さらね」
櫛を置き、髪の毛を一つに束ねていくオオガミ。
メルトはそれに気付きつつもあえて触れることはなく、
「それで、私の髪はどう思ったの?」
「うん。触り心地は良いなって。細くて柔らかい髪だから、大切にしたい髪だね。それに、髪が光に当たって輝いているのも好きだよ」
「……で、比較したのは?」
「エウリュアレ。メルトと同じできれいな髪なんだけど、少しザラザラしてる。潮風に当たるような場所だったし仕方ないかなとは思うし、手入れをすれば良くなってきているからあれはあれで。ただ、やっぱりメルトよりは太いかな」
「……だいぶ変態じみてきたわね」
「ちょっと自覚してる」
「そのうち髪を触らせただけで誰かわかりそうね」
「エウリュアレとメルトしかわかんないから勝負にならないって」
「むしろ複数人の中から私たちを見つけるとか」
「それなら簡単そうだ」
「難易度が極端ね……私たちが絡むと異様に強いのなんでかしら」
「そりゃまぁ、言えないやつです」
「……よくそんな言葉が出てくるわね」
「真面目に答えるなら、過ごした時間と触れてきた時間が段違いだよ」
「……改めて言われるとだいぶ恥ずかしいセリフね私を殺す気?」
「愛で人が殺せるのを実践しろと。死因は悶絶?」
「恥ずかしさで殺しに来ないでほしいのだけど。貴方なら本気でやりそう……」
そういっている間にオオガミはメルトの髪を団子状にまとめて髪止めなどで雪だるまのように装飾していた。
すると、エウリュアレがお風呂から帰って来て、
「オオガミ。私もお願い……ふっ、ふふふ……なにその髪型……遊ばれてるじゃない……」
「え、待って待ってなにされたの!? 鏡を寄越しなさい!」
「それはちょっと出来ない相談かなぁ」
そう言って顔を背けるオオガミに、メルトは襟を掴んで前後に揺するのだった。
独断と偏見の塊で出来ている二人の髪質。これは奥が深そうな問題だ……