「カーマ……その、なんだ。無理はしなくてもいいからな?」
「良いですかバラキー。これはもう挑戦なんです。面倒だからで済ませていい案件じゃないです。貴女にとって私が美味しいお菓子を作ってくれるという想いを持っている時点でそれよりうまいお菓子って言うのは攻略対象なんです。なので試作品は食べてもらいますからね」
「いや流石の吾も引くほど多いのだが……」
容赦のない饅頭の群れ。事の発端はと言えば、いつものバラキーのわがままであったのだが、既にカーマの意地に変わっていた。
「……吾、別にカーマの饅頭が悪いとは言ってないと思うのだが……」
「悪い悪くないじゃないんです。あのときの饅頭より美味しいか美味しくないかなんです。いいですか? 全方位の愛に対応するってことは、全方位に精通していないといけないんです。ですから、出来ないってことがある時点で愛の女神として敗北なんです! 私はダウナーな感じで全てをそつなくこなしたいんです。だるだる~っとした雰囲気全開でやりたいんです。だってそっちの方がカッコいいじゃないですか!」
「いや全くわからんが。というか、もはや吾関係ないのでは?」
「例え無限大の私の可能性があってもそれを即座に発揮できないのならそれはやはり愛の神として敗北感が強いんですよわかります!? 確かに私は働きたくない愛の女神ですけど、それはそれとしてやれることはやっておくべきですしたまにこういうことをしないと自分の意義を忘れるので真剣にやってるんですよ! 例え面倒でもしなくちゃいけないことなんで!」
怒濤の勢いでそう言うカーマの言葉を聞いて、バラキーは、
「……で、結局饅頭は作るのか?」
「当然じゃないですか。ここでやめたらお菓子作りの私が泣きますよ」
「汝は一体何と戦っているんだ……?」
「私自身です!」
「……流石に吾もそれはどうしようもない……」
「バラキーは食べるだけでいいので。えぇ、全部食べるだけで大丈夫ですから」
そう言って、ドンッ! と言う重々しい音と共に置かれた皿の上には、若干見上げるほどの饅頭の山。
いつぞやのタルトを思い出したバラキーは、ほんのりと青くなった顔でカーマを見ながら、
「……吾の胃には余るものだと思うのだが……助っ人は呼んでも良いのか?」
「マスター達ならいいですよ。マスターいるでしょうし」
「わかった。吾ちょっと呼んでくる」
「えぇ、早く戻ってきてくださいね」
そう言って、バラキーは急いでオオガミを探しに行くのだった。
お菓子ガチ勢カーマちゃん。珍しく愛の女神要素フルバーストでお菓子作り。しかし厨房組とのレベル差は計り知れないのだった……