「夢の!! 武道館ライブ!!」
「余とエリザの夢のデュエットだぞ!!」
まるで地獄の釜の蓋が開く様な宣言に、その場にいた全員が戦慄する。
いつもならばオオガミの味方に回ってくれるエルキドゥすらも、今回ばかりは視線を逸らしていた。
「……マスター。僕はいなくてもいいかな?」
「ダメ。裏方担当だよ」
「ククク……マスターよ。俺は少しばかり用事があるのでな。失礼させてもらう」
「問答無用。逃がしはしないよ」
「私は……その……ナーサリーさんと行こうって言っていたお店があって……その、えっと……」
「大丈夫。ナーサリーも来るよ」
明らかに逃がすつもりのないオオガミ。これは強行突破しかないのだろうか。という考えが生まれそうになるが、しかしこの狭い島の中で逃げ切れるのだろうかという結論に至り、如何にして被害を抑えるかという方向に考えを切り替える。
「……よし。これはあれだ。BBに頼ろう」
「そうだな。信長も連れて来て、手伝わせるか」
「えっと、探してきますね」
「あぁ。ついでにエウリュアレも見つけてくれると助かる。おそらくケーキで釣れるだろうから、それで誘って、ヘシアン・ロボを使って人員を集めるのが一番楽だろう」
「いや、それは巌窟王が行ってくれ。リップはこっちで力仕事だ。敏捷的に、そっちの方が効率がいいだろう。こっちは速度勝負なんだ。開催までに完全な準備が出来ないと、こっちに被害が及ぶからね。全速力だよ」
「あぅ……分かりました。えっと、お母さんはたぶん今日もゲームセンターに籠ってると思いますので、先にそこに行くのが一番だと思います」
「……分かった。請け負おう」
「任せたよ」
そう言うと、巌窟王は全力で走っていく。
それを最後まで見送らず、二人は準備に奔走する。
* * *
巌窟王の頑張りにより、何とかBBとノッブを捕獲した三人は、ついでとばかりに連れてきたメディアと一緒にライブの準備をしていた。
「全く……なんだ私まで」
「君が一番うまく衣装を作れるからだよ。それに、機材待ちよりも、衣装待ちの方が待ってくれそうじゃないか」
「……それもそうね。まぁ、任せなさい。キチンと仕上げておくから」
「あぁ。僕たちはこっちをやっておくから、任せたよ」
「えぇ。頑張りなさいな」
そう言って、エルキドゥはBBとノッブに頼まれた素材を運ぶ。
「あぁもぅ!! どれだけかかるんですか!!」
「アホなこと言っとるんじゃないわ!! 今始めたばっかりじゃぞ!!」
「ぐぬぬ……というか、なんで私がこんなことやってるんですか!?」
「そりゃ、島内全域、地獄のライブにならない様に、だよ」
「マスター……お主、なんというもんを始めさせとるんじゃ……」
「いや、だからここで手伝ってるでしょ? 武道館を建てた瞬間に言い出したんだから……」
「逃げ場無し、じゃな」
「まさか島内全域で流すとか言う脅しをしてくるとか、私、困惑ですよ。センパイ、何考えてるんです?」
「あの二人の被害を全力で抑えるために、だよ」
「あ、あぁ……なるほど。確かに、あの二人は混ぜたらいけない核物質ですしね……」
「うん。そして、人がいないライブであの二人が満足するわけがないから、人が来ても大丈夫なようにする機材を作れると思われるBBに来てもらったわけだよ。これで作れないとか言われたら、令呪を切る覚悟もあったんだけどね」
「それ、誰に対してです……?」
「BBに対して」
「うっわぁ……理不尽です……」
最悪一人は観客を確保する。という意思がはっきりと見て取れるのは、果たして、二人を悲しませたくないからなのか、自分だけが被害に遭いたくないからないのかは定かではないのだった。
「むぅ……正直もう少し凝りたいが、スピード勝負なら仕方あるまい。BB。一応できたぞ」
「早いですね。やるじゃないですか」
「おぅ。次の仕事を寄越すんじゃ。これ、メディアが衣装を作り上げるまでに終わらせる必要があるんじゃろ?」
「そうですね。はい、次はこれです。巌窟王さん達にももうひと頑張りしてきてもらいましょうか」
「ハハハ……すまない皆。頑張ってくれ」
BBの一言と、死んだような表情から放たれたオオガミのエールに、エルキドゥ、巌窟王率いる材料回収組が頬を引きつらせるのだった。
この後ライブは大盛況で幕を閉じ、裏方は全滅していた模様。
武道館を建てるとか書いてあったら、思わず建てたうえでこんな話を書きたくなるのも仕方ないと思うんです!! 仕方ないと思うんです!!
重要な事なので二回言いました。
素材は全部回収終わったんですけど、未だ建物改修が終わらず。明日までには終わらせるんだ……!!