「虚数の海は楽しかったかしら」
「新鮮な旅だったよ」
いつものようにマイルームで、定位置だと言わんがばかりの表情をしながらオオガミの膝の上を陣取るエウリュアレは、返答を聞くと同時にオオガミに満面の笑みを向け、その脇腹に容赦のない肘鉄を突き刺す。
「ふ、ふふふ……この程度、致命傷でしかないよ」
「寝てないで起きなさい」
あまりのダメージに横になろうとするも、エウリュアレの無慈悲な一言で泣きながら起き上がる。
エウリュアレはため息をつくと、
「別に、拘束しようなんて思ってないわよ。だってあなたがひどい目に遭って大変な思いをする話を聞きたいもの。でもどうせならあなたが無様にやられてる姿を目に焼き付けたいわ」
「スゴいね。一切自分の欲を隠そうとしないところが好きだよ」
「えぇ、ありがとう。お礼にどんな冒険だったか語る権利をあげるわ」
「別に権利は要らないんだけど」
「そう。じゃあ義務ね」
「女神様らしい横暴さだね。嫌いじゃないよ」
「……悪い意味で順応されてるわね。面白くないわ」
「まぁ、エウリュアレとは付き合いも長いし。それに、昨日から機嫌悪いみたいだから。帰ってきてくれないくらいだし」
オオガミがそう言うと、エウリュアレはなにかに気付いたように笑い、
「あら、てっきり気にしてないものかと思ったけど、そう。そんな反応をしてくれるのね」
「当然。いつもいるものだと思ってるし」
「期待するのはいいけど、そもそも置いていかれたのは私なのだから、そういう仕返しをしても許されると思うの」
「ぐうの音も出ない。そりゃ怒って出ていくよね。うん」
「えぇ。だから今日は私以外はこの部屋に来れないようにしておいたわ」
「どうしようやることが極端だよこの女神様! ギリシャの男性神がよくやるやつだよ!」
「残念だけど、突発的に行動する彼らとは違って、あなたが出掛けてからずっと練っていたのだから簡単に破られないわ」
「どうしよう桁外れに用意周到だよ……!」
エウリュアレは立ち上がり、オオガミの方を向くと、
「退屈なのはいやだもの。せいぜい私が飽きないように頑張りなさい。マスター?」
「いつだって最大限の努力をしてるよ」
「知ってるわ。だからここにいるんだもの」
エウリュアレはそう言うと、オオガミの隣に座り、膝の上に頭を乗せる。
突然膝枕を強制されたオオガミは、苦笑いをしながらもエウリュアレの頭を撫で、
「もしかして、撫で回されてたアビーに嫉妬してたとか?」
「ふふっ。次同じ事を言ったら動けなくなるまで血を吸ってあげるわね」
「不用意な一言でまた一つ寿命を縮めてしまった……」
オオガミはそう呟くと、エウリュアレが満足するまで頭を撫で続けるのだった。
エウリュアレは、嫉妬深いといいなって、ちょっと思う……
でもうちのエウリュアレはメルトやアビーに甘過ぎるので嫉妬オーラはそんなに出ない……たぶん。