「それで、なんで倒れてたの?」
「バラキーにお菓子をあげつつさりげなく聖杯を渡そうとしたら突然現れたカーマがみぞおちに一撃蹴りを入れてバラキーを連れて去っていった」
「要するに打撲の痛みで呻いてただけだ。実に面白味がない健康体。動けるようになったのだからさっさと部屋に帰って安静にしてろ」
心底つまらなそうに言うアスクレピオス。
そうして医務室を追い出されたオオガミ達は、部屋に向かっていた。
「彼、信頼できる腕だけど、マスター相手にも容赦ないのね」
「ああいう対応をするってことはまだ大丈夫だなっていう安心になるけどね」
「あの対応じゃなくなる前に私が怒るわ」
「それは、勘弁願いたいね」
苦笑するオオガミに、エウリュアレはため息を吐き、話題を変える。
「それにしても、聖杯なんてまた突然ね」
「一応言っておくけど、バラキーには既に聖杯二つ渡してるからね? むしろまだ5個渡していないのかって感じなんだけど」
「そういえば、そうだったような気もするわね」
「ステンノ姉様の聖杯が無かったのが原因なんだけど、今はその心配はもう無いし、使い時だと思ったんだけどね。ボディーガードが予想以上に強かった……」
「よくわからないけど、バラキーに強くなられると困るのかしらね」
「いや、あれは単純にお菓子を渡してたのが気に食わなかっただけなんじゃないかな……」
私以外がバラキーに菓子を渡すなど許さん。と言わんがばかりの鋭い眼光を思い出し、身震いをするオオガミ。
その反応を見たエウリュアレは、
「あなたのその顔を見れば、あの子がどれだけ必死だったかが目に浮かぶようね」
「半泣きだったね。うん。そう言えばバラキーのために一週間必死でお菓子を作ってるんだって言ってたの忘れてたよ」
「あぁ……それは確かに、あなたが悪いわ。来週にしておくべきだったわね」
「いや……カーマのはしばらく続くと思うけどな……あれはそういう雰囲気だったよ」
「……一時期のあなたみたいな感じかしら」
「うんそんな感じ……あんな感じだったのか」
「まぁ、作らせていたのは私だったのだけど、聞いてる限りそんな感じよ」
「一回はまるとしばらく習慣みたいになるからね……しょうがないというか。気付いたら厨房に立ってるからね」
「自覚あるじゃない」
ハハハ、と笑うオオガミにエウリュアレは釣られて笑みを浮かべつつ、
「まぁ、エミヤに嫉妬して攻撃を仕掛けたりはしてなかったから、その分だけはマシなのかしらね」
「そんなことを考えるよりも作るのに必死だったし、何より楽しんでたからね」
「気付けばバリエーションも豊富になってるし、技術もどんどん上がっていくし。訓練をしたりイベントに巻き込まれたり世界を救ったりしている間のどこにそんな余裕があるのかしらね」
「そりゃ、余裕がないなら作るしかないってことで」
「無茶してるって訳ね。全く……」
そう言って、エウリュアレはなにかを思い出したような顔をし、
「そうだ。チーズタルトを作ってほしいのだけど」
「今から?」
「今からじゃなくても良いけど……出来るだけ早めにお願いしたいわ」
「ん~……わかった。早めに作っておくよ」
「よろしくね」
そう言いながら、二人は自室に入っていくのだった。
バラキーにお菓子を渡そうとするとカーマが飛んで来るという噂があるという……
バラキーに聖杯を入れて100にするかは今とても悩んでいるので保留中案件。