「ふんふんふ~ん」
「偉い上機嫌ね。100箱は行けそうかしら」
「ふっふっふ。頑張らないとヤバいよ」
しゃがんで花びらを数えていたオオガミに、後ろから抱き付き顔を覗かせるエウリュアレ。
オオガミは立ち上がりつつ、器用にエウリュアレを前に移動させ背中に手を添えて支えると、
「エウリュアレもずいぶん上機嫌みたいだけど」
「えぇ、だって久しぶりに戦ったもの。まぁ、戦いというよりは蹂躙の方が近いかもだけど」
「確かに、あれは蹂躙だったけども。しかも昔よりも格段に強くなっているというか……無傷の完勝だったね」
「まぁ、その道中はダメージを受けちゃったけど、誤差の範囲よ」
「十分すぎるくらいだから気にすることでもないでしょ。じゃ、女神様。少し時間に余裕はありますし、売店の見回りはいかがでしょうか?」
「……ふふっ、いいわ。付き合ってあげる。今年は何が売っているかしらね」
エウリュアレはそういうと、オオガミから少し離れ、手を伸ばす。
オオガミはその手を取ると、売店に向かうのだった。
* * *
「また性懲りもなく店を出しているわけね」
「これでも需要はあるのよ。毎度どこからともなく現れて買っていってくださる方がいるのだもの」
「そう……で、今回は何を作ってるのかしら」
「たこせんサンド!」
そう言って、満面の笑みで差し出してくるアビゲイル。
オオガミはそれを怖々受け取りつつ、中身を見る。
中には見ただけで出来立て熱々とわかるたこ焼きを、出所不明のタコ(?)を使っているタコせんべいで挟んでいるという、原材料さえ考えなければ普通に美味しそうな料理だった。
「……見た目は普通だね」
「その見た目は普通に騙されて何度倒れたか覚えているのかしら?」
「……マーリンにでも与えておくか」
「人の料理をそんな劇薬みたいに……!」
そう言って、悲しそうにするアビゲイル。
だが、エウリュアレは呆れた顔で、
「普通の食材なら文句はないけれど、あなたのタコ料理は色々と喧嘩になるからダメなの。普通の食材なら食べるわ」
「えぇ、そういうと思って、普通の食材でも作ってみたわ。でもいつもの方が美味しいから!」
「その絶対的自信はどこから来るのかしら……別に良いのだけど……」
頬を膨らませているアビゲイルからたこせんサンドを受け取ったエウリュアレ。
そのまま一口食べ、しっかりと味わい――――
「……美味しいわね」
「えぇ、そうでしょうそうでしょう! 試行錯誤したんですもの! ちゃんと美味しいように、美味しくなるように!」
「そうね。しっかり美味しいわ。普通のも用意したのが本当に偉いわ。だからオオガミ。それは食べてね」
「劇薬と判断した上で食べろと?」
何を言っているんだとオオガミは表情で語るが、対するエウリュアレは笑顔の圧力でそれを黙らせる。
手元のたこせんサンドを見ると、どこか笑っているような雰囲気がして、オオガミの顔は引き吊る。
そして、二人に見守られ、観念して一口食べる。
「…………オオガミが動かなくなったのだけど」
「大丈夫よエウリュアレさん。マスターは今、宇宙を垣間見ているの。あぁ、
「本当に食べて良いものなのよね!?」
満面の笑みのアビゲイルを見て、少し顔を青くするエウリュアレ。
その時、オオガミはゆっくりを顔を上げ、
「……死ぬかと思った」
「劇薬じゃない」
「劇薬じゃないわよ!」
「大丈夫……宇宙が見えて息が止まっただけ……」
「死にかけてるわ……!」
「むぅ……エウリュアレさんが頑なに毒扱いしてくるわ……!」
「まぁ、ただ意識が飛びそうになるだけだし危険性はそんなに……あるけども、美味しいことに代わりは……ないよ。うん」
だんだんと沈んでいくテンション。しかし、すぐに顔を上げると、
「アビー。ちょっとお使いを頼みたいんだけど」
「何かしら。マスターのお願いだもの。なんでも……は、無理だけど、出来る範囲でやるわ!」
「うん。じゃあ、このお菓子の詰め合わせを持って、向こうのカルデアのマスターに渡してきて」
そう言って、おしゃれな箱をアビゲイルに渡すオオガミ。
アビゲイルは首をかしげ、
「向こうって……この前も迷い込んでいたところかしら」
「うん、そこ。色々見て回れるようにQPもあげるね。バレなければそれを販売しても良いんじゃないかな……まぁ、そこはアビーに任せるけど。他に質問は?」
「本人に渡した方がいいのかしら。それとも、向こうのメルトさんでも良いの?」
「ん~……本人の方がいいかなぁ。ネロ祭が終わるまで見つけられなかったら誰かに渡して帰ってきてね」
「わかったわ! じゃあ、行ってくるわね!」
「うん。行ってらっしゃい」
そう言って、アビゲイルは門を潜っていってしまう。
見送ったオオガミは、
「よし。それじゃあ見回り行こうか」
「大丈夫かしら。迷惑かけない?」
「まぁ、混沌のたこせんサンドがどうなるかだね。それ以外は心配してないよ」
「そう……まぁ、それならいいけど。ね、エミヤの出店に行きましょ。美味しいのを食べたいわ」
「おっけ。じゃあ行こうか」
そう言って、二人は見回りを再開するのだった。
楽しいなぁこの二人。やはり二人揃って最強。
アビーのお届け物は彼方の彼女へ。貰った思い出を倍にして返さなきゃ行けないので今年の夏は熱くなる……