「やることが無いっていうのは、平和と言うか、暇というか……」
「そんなこと言ってると、絶対に何か来るわよね……」
休憩室でいつも以上にだらけているオオガミ。そんな彼が突然不穏な事を言ったので、即座に突っ込むエウリュアレ。
本日はスフレパンケーキ。ふんわりという領域を超えて、口に入れると溶けていき、甘さだけを残していくようなパンケーキは、エミヤの自信作だそうだ。コーヒーや紅茶、ホットミルクを飲み物として選ぶのが良いだろう。
「……ねぇマスター。私、今更思ったのだけど、あの厨房のエミヤっての、どうしてこんなにも料理が上手いのかしら?」
「さぁ……? エミヤに直接聞いてみる?」
「いやよ。面倒臭い」
「本人曰く、『昔からやっていた』そうだぞ。というか、なぜ紅茶やこーひーを飲めるのか……牛乳で良いではないか」
「それはあれだよ。好みって奴ですよ。というか、バラキー……何時からそこに?」
「何時からも何も、吾は一緒にいたではないか。ぱんけーきも共に貰っていたというのに……」
「……そうだっけ?」
「吾、そんなに影が薄いか……?」
「いえ、私たちが話し込んでいたからじゃない? この人、集中してる時は周りが見えにくいみたいだし」
「うむぅ……そんなものなのか……上に立つものならば、周囲にも気を配らねばならぬぞ。
エウリュアレのフォローに、不満そうなものの、上に立つものの責務のようなものを教えてくれる茨木。
オオガミはなんとなく腑に落ちないものの、影が薄かったからと言って暴れ出されるよりはマシだと思い、甘んじて受け入れる。
「というか、なんでバラキーはそんなこと知ってるのよ」
「うむ。この前、ナーサリーが聞いておってな。その時聞いたことを言ったまでだ」
「そうなの。不思議なこともあるものね」
「たまたま特に意味もなく聞きたかったことが聞けるという幸運。とりあえず、今の会話から、おそらくそろそろ来るであろう人物が分かったよ」
「……頑張ってね、マスター」
「エウリュアレがわざわざマスター呼びする時点で嫌な予感しかしないね」
ははは。とオオガミが乾いたような笑いをし、やはりというべきか、扉は開く。
「マスターさんマスターさん! 遊びましょ!! 私、アガルタに行ってみたいわ!!お話に出てくるような場所がいっぱいなんでしょう!?」
元気一杯のナーサリー・ライム。予感は的中。想像通り、やって来たのは彼女であり、しかし要求される内容が想像とかけ離れていたため、困惑する。
「あの、お茶会とかではなく、冒険なんですか? お姫様」
「えぇ、えぇ! バラキーとバニヤンも連れていきましょう! 絶対楽しいわ!!」
「む。何時の間にやら吾も行くことに……?」
「じゃあ、私はバニヤンを呼びに行ってくるから、マスターさんはバラキーと一緒に来てね!!」
「……これ、断れないです?」
「えっ……マスターさん、来てくれないの……?」
若干嫌そうな顔をするオオガミに、悲しそうな表情で、目を潤ませて問い掛けるナーサリー。
これをされてもなお断れるなら、それはおそらくまっすぐな心で、誘惑に惑わされないヤバイ系の人間か、ただのド外道くらいだろう。と思うオオガミ。
当然、答えは一つである。
「もちろん行きますとも。待っててね、ナーサリー」
「今、さらっと吾は売られた気がするのだが?」
「やったわ! ありがとうマスターさん!! じゃあ、待ってるわね!!」
走り去っていくナーサリー。それを見送ったオオガミは、
「という事で、急遽アガルタ行きが決定されたよバラキー。急いで準備するんだ」
「吾、強制なのか……普通に断る」
「じゃあ、頼光さん呼んでくるね」
「ちょ、それは無い! それは無いぞマスター!! あやつが怖い事は知っておるであろう!? そんな、人を軽く超えている様なのを吾にぶつけようとするでないわ!!」
「バラキーの方が人じゃないでしょう。と突っ込みたいのはやまやまだけど、それはそれ。今は支度が先だよ!! 頼光さんを呼ばれたくないなら速く準備をするんだ!!」
「こやつ……後で憶えているが良い!!」
そう言うと、バラキーは部屋を飛び出していき、数瞬遅れて、オオガミも走りだすのだった。
一人残されたエウリュアレは一言、
「まぁ、まだ平和な方だったわね」
そう言って、入れ違いに入って来たノッブとBBを見るのだった。
バラキーを脅すときは菓子よりも頼光さんが手軽なんじゃないかと思った今日この頃。おそらくこの脅しを使うたびに友好度が下がっていく……