「うむぅ……残り……いくつだ……?」
クッキーの必要量を考えながら、オオガミは周回を続ける。
エルキドゥはそれを聞くと、
「800×4、1200×1、900×1だろう? 5300だね」
「うお、流石エルキドゥ……暗算速いね」
「これくらいは出来ないとね。でも、マスター。必要個数を考えても仕方ないと思うのだけど?」
「いやいや。残るは一日半。どれだけ取ればいいのかを考えるのも必要だよ。とりあえず一日3000くらいかな!!」
「……それだけ集められると思ってるのかな……」
「そう思わずにやってられるかい、こんなもん」
地面にクッキーを一つ叩き付け、怒りを露わにするオオガミ。直後、叩き付けた事に後悔しているオオガミを見て、エルキドゥは何とも言えない気持ちになる。
「あの、マスターはどうしてこう、いつも暴れてるんです?」
「ぶつけ所の無い怒りを何処かにぶつけようとしてるからだと思うよ。僕は」
「マーリンさんは黙っていてください」
「……君のそれはスキルの影響だって学んだよ。うん。これほど殴ろうか悩む案件は久し振りだ!」
「実際に争ったら君の方が負けるだろう? 止めておいた方がいいんじゃないかな」
八方塞がりなマーリンなのだった。
しかし、マーリンが言ってることも、あながち間違ってはいないのが現実である。
「それで、どうやったら止められるんでしょう。あれは」
「う~ん……放っておいた方がいいと僕は判断したね」
「……じゃあ、見守ることにしようか」
三人はそう言うと、とりあえず襲い掛かってくる量産型メカエリチャンの群れを撃退することにした。
ところ変わって、オオガミがのたうち回っているところに襲いかかる影が一つ。
「うがぁ!! 吾の菓子はまだかぁ!!」
「うぎゃぁ!! 何をするんだバラキー!!」
襲撃されたオオガミは、襲撃してきた茨木と共にゴロゴロと転がっていく。
茨木は大変ご立腹のようで、頬を膨らませて涙目で言ってくる。
「吾のマカロンは無くなるし、グミは尽きるし、ラムネは飽きたし……そのクッキーも寄越せぇ!!」
「ぎゃぅわぁぁぁ!! この鬼怖いよぉ!!」
「うがああぁぁぁぁぁぁ!!!」
ガチンッ!! ガチンッ!! と音が鳴るほどの勢いでクッキーに向かって噛み付いてくる。
至近距離でそれを受けているオオガミは、半泣きになりながら必死で回避を続ける。
「ば、バラキーストップ!! 落ち着いて!! それ以上は色々と危ないから!! こう、今の状態を第三者が見た時の感じとか!!」
「知った事か!! 汝はマスターとして、吾に菓子を渡す義務があるだろう!!」
「そんな義務があったとは!!」
ふがー!! と、およそ人でも鬼でも出さないであろう声を出す茨木。例えてみるのだとしたら、怒り状態の猫とでもいえばいいだろうか。
「ちょ、一回降りてくれないかな!?」
「無理だ!! 吾はそのクッキーをもらうまで、退かぬ!!」
「えぇ~……く、くそぅ、駄々捏ねる子供みたいなんだけど、パワーが桁違いだからシャレになってないぞ……!!」
「はいはい。流石に目に余るよ、茨木」
「ぬお!? お、降ろせー!!」
ジタバタと茨木が暴れるが、エルキドゥの鎖の前では効かない様子。
オオガミは茨木が退いたことで起き上がれるようになり、ゆっくりと立ち上がる。
「それで、お菓子だっけ……うん。帰ったら何とか……それでいいですかね?」
「むぐぅ……仕方あるまい。それを大人しく待つとしよう……」
茨木は鎖に締め上げられて磔のようにされていても、平然としていた。
オオガミはその姿に若干の尊敬の念を込めながらも、
「じゃ、バラキーはそこに放置で」
「そんな!?」
畏敬の念を込めて、置いて行くのだった。
尊敬で畏敬って一体……
しかし、鬼のパワーで乗りかかられたら子供みたいな体格でも怖いですって……