行きますよ、トナカイさん!(これだけ高いと、普通に怖いよね……)
「ソリの上って、案外怖いのね……」
空高く。雲は眼下に、天には無数の星々と大きな月。
月光を照らし返す雲は、しかし乗れるわけもなく、ただ漂うのみで、更に言えば、ここがとてつもなく高いということを確かに伝えてくる。
下に目をやり、その高さに震えたオオガミに対して、小さなサンタ――――ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィは口を開く。
「何言ってるんですかトナカイさん。高いところくらい問題ないですよね?」
「いや、別に支障はないけども……寒くないの?」
「えぇ。私はサンタですからね。このくらいへっちゃらです!」
「うぅむ、その薄着で寒くないとは。流石サンタ」
「ふふん。当然です。サンタですから」
惚れ惚れするほどのドヤ顔に、もはや驚くこともなく平然と受け入れるオオガミ。
しかし、サンタジャンヌは嬉しそうに言葉を返す。
「それで、その袋の中は何が入ってるの?」
「それは秘密です。ただ、皆さんへのプレゼントとだけ。あ、見ようとしないでくださいよ? したらこの槍で、こう、グサーっと行きますからね」
「何それ怖い……マスターとはいえ、一般人の俺からしたら即死なんですが……」
「死んでしまったらその時はその時です。というか、トナカイさんはそうそう死なないというか、殺しても死なないとエウリュアレさん言ってたのですが」
「エウエウ何言ってるの!? 普通に死ぬからね!?」
信頼していた女神は、アッサリと自分の事を人外扱いしていたという事実に、オオガミは悲鳴のような声をあげる。
その反応にサンタジャンヌは頷くと、
「ですよね。やっぱり普通に死にますよね。じゃあ、なんで死なないって言われてるんでしょう?」
「あ~……あれかな……エウリュアレの弓矢を避けきったからかな……」
「えぇ……そもそも、なんで自分のサーヴァントに襲われてるんですか」
「それは……えぇっと……あの時は何をしたんだっけな……っていうか、ちょくちょく射たれてるからどれが原因か思い出せないな」
「そんなに!? トナカイさん、さては悪いトナカイさんですね!?」
「酷い言われようだなぁ全く! 普通に悲しいよ!!」
一体何をしたというのか。というより、なんかもう既に避けられ始めている現状に泣きたいオオガミ。二人しかないので、このままだと精神が危ない。
いや、彼女が槍をしっかり握りしめたところを見るに、物理的にも危ないかもしれない。
「あの、サンタさん? 別に別に悪いことはしてないんだよ。ただ、いつもいつも振り回されてるから、ほんのちょっとした仕返しのつもりでエウリュアレのフレンチトーストを一切れ食べただけなんですよ。そしたら、凄い形相で矢を打ちまくってきまして、半泣きになりながら全力で逃げたわけです。当然、その時の原因は向こうにあるわけで――――」
「なんて陰湿なやり返し……!! トナカイさんに罰を! てりゃぁー!」
「理不尽!!」
狭いソリの中で真っ直ぐと突き刺してくる槍を受け流し、横凪ぎを伏せて回避する。
「あ、危ない危ない危ない!! 殺す気ですかサンタさん!!」
「むしろなんで最初の一撃を受け流せたんですか!? さてはマスターさんは人間じゃないですね!?」
「これほど理不尽なのを見たことはないってくらい酷いセリフだ!!」
「ぐぬぬ……倒せないのなら仕方ないです。とにかく、プレゼントをしっかり届けきらなくちゃですね。やりますよ。トナカイさん」
「今しがた殺されかけたところなんだけどなぁ……!!」
オオガミは、この死と隣り合わせの状況から抜け出せるのか。
とりあえず、今回は集めた靴下で手に入れたボックスをサンタジャンヌに開けさせて、なんとか気を逸らすことに成功したのだった。
なんというか、結構な確率で殺されかけているオオガミ君。ごく自然な日常風景ですね。(白目
しかし、ボックスガチャの時のジャンタのセリフに萌え殺されそう……コフッ