百重塔を登り続けるこの戦い(温泉から戻るのも一苦労だわ)
「ふあぁ……とっても高いわぁ……!!」
「落ちるんじゃねぇぞ~? 戻ってくるの、疲れるからな~?」
アビゲイルが
アンリは少し離れた所からそれを見つつ、注意する。
それに反論するべくアビゲイルは振り返り、アンリを見る。
「もぅ。私はそこまでひどくないわ! ちゃんとそれくらい気を付けるわ!!」
「えぇ~? 本当か~? うっかり落ちちゃったりするんだろぉ~?」
「落ちたとしても、また戻って来れるわ!! たぶんマスターも待ってくれるわよ!!」
「おぅおぅ。とりあえず、今オレ達はマスターよりも下にいるからな? 上に行かなくていいのか?」
「そ、それは……マスターが待ってろっていうから……」
アンリから目を逸らしつつ、実は上の様子をどうにかして見ようと頑張っているアビゲイル。
その頑張りを知っているアンリは、特に何か言うわけでもないが、どうなるかは体験して知るべし。
「あうぅ……またちょっとくらくらしてきちゃったわ……温泉に戻ろうかしら……」
「オレはもう登りなおしたくないんだけどなぁ……マスターはなんでこう、任せたかなぁ……」
そう。アビゲイルとアンリが共に居るのは、オオガミがアンリにアビゲイルを見張っているように言われたからだ。
理由はよく分かっていないのだが、頼まれたものは仕方ないと割り切り、アンリは今こうしてアビゲイルを見張っているわけだ。
「それで? 本当に戻るのか?」
「ん~……やっぱりいいわ。まだ大丈夫、上に行くわよ!!」
「へいへい。つか、マスターも進みが早いねぇ……ここまで登ってるとは流石に思わなかったわ」
「ふふん。マスターだもの。これくらいいけるわ!!」
「ん~……オレにはどうしてアンタがそんな自信あるのか分からないけどね。いやぁ、マスターは愛されてるねぇ」
軽い足取りで階段を上がっていくアビゲイルを見送りつつ、ため息を吐くアンリ。
なんとなく、アンリは先ほどまでアビゲイルがいた場所に行くと、
「しかし、高いなぁ……これは、確かに夢中になるのも分からなくねぇな。ま、落ちたら即死な――――」
ドンッ。という鈍い音と共に空中に放り出されるアンリ。
原因は視界の端に移った触手に違いない。そう確信して、
「いつかやられると思った!!!」
当然の如く落ちて行くアンリ。しかし、その直後に触手に捕まり、落下が止まる。
「もぅ。ちゃんと周囲を見てなきゃダメよ? こうやって落ちちゃうわ」
「ハハッ……落とした本人に言われるとか、もう何も言えないわ」
引き上げられ、苦い顔をしているアンリ。
元の階に戻されたところで、容赦なくアビゲイルに刃を叩き付ける。
「危ないじゃない。ここから温泉に帰るの、大変なのよ?」
「ダイレクト帰宅させようとさせてた本人が言うんじゃねぇよ……はぁ。全く、本当に辛い……」
「ふふっ。でも、いつでも置いていけるのに、全く置いて行こうとしない所は凄いと思うわ」
「落とされた後に言われても説得力ないけどな? まぁいいや。行こうぜ」
「えぇ、そうね」
そう言うと、二人は階段を登って行くのだった。
まぁ、アビーはまだ一回も出撃してないんですけどね。アンリは30階で頑張っていました……