「あ~……生き返るわぁ~……」
「アンリめ。真っ先に入って俺が言いたかったこと言いやがった……!!」
「へっへ~ん。お先だぜ~」
温泉。最初からあったにも関わらず、ここまでアンリ投げ入れエリアというかなり不当な扱いをされていた可哀想な場所だ。
そして、先に入ったアンリを恨めしそうに睨みながら、オオガミも入る。
「いやぁ……暖まるねぇこれは。どうだいマスター。オレが見つけたわけでもねぇが、中々なもんだろ?」
「うんうん。特に、濁り湯ってところが、温泉らしさを引き立ててる気がするよ」
「っは~……極楽極楽。いやまぁ、混浴ならもっと言いかもしれんがな?」
アンリの発言と共に、静かになる場。
二人とも天を仰いで、黙っている。
その沈黙を破ったのは、オオガミ。
「流石にそれは死ぬんじゃない?」
「いや……可能性はある」
ねぇよ。と全力で突っ込みかけたオオガミは、その気持ちを必死で押さえ、
「な、なんでそう思うのさ」
「そりゃ、何かあったらマスターを盾にするし」
「躊躇いなく犠牲にしやがったコイツ!!」
「おぅ。塔でのこと、忘れたとは言わせねぇからな?」
躊躇なく瞬時にアビーにアンリを売ったオオガミは、およそ許されることはない。
「まぁまぁ。アンリ温泉投げ込み事件は忘れていこうじゃないか」
「いつか三倍返しにするって決めたからな。だから、今ここでマスターを盾にしながら女湯に乗り込むのもありかと」
「うぅむ、見つかったら確実に殺される。そして何より、入っているメンバーを考慮してないのがダメかと。アンリよ……アビーとマシュだぞ……?」
「アビゲイルはどうでも良いだろうが。狙うはマシュだろ? 何当然の事言ってるんだ」
「どのみち即死なんですが。アンリが気にせずとも、アビーは気にするんですよ。当然でしょうが」
「それはそれ。これはこれだ。どのみちマスターを盾にするから問題ない」
「アビーの攻撃は背後からも来るんだよねぇ……」
実質、全方位から攻撃される可能性は高い。なので、実質盾など無意味だろう。
つまり、
「要するにだ。あれだろ? 走って逃げろってことだろ? マスターをアビゲイルに叩き付けて、即時撤退。完璧じゃね?」
「どこら辺が完璧なのかを問いただしたいところなんだが?」
「どこって、そりゃ、全体的に?」
「もはやどこが全体なのかも見失ってきたな……うん。女湯潜入も、混浴も、殺される道しかないので無しで。大人しくしてましょう」
「へいへい。夢のないこって。じゃ、オレは一足お先に、行ってるからな」
「もう出るの……いや、今の流れからして明らかに死にに行ったかアンリ!!」
止める暇もなく、アンリは女湯に突撃していった。
直後、巨大な水しぶきと共にアンリが頭から温泉に飛び込んできたのは、言うまでもないだろう。
アンリは英雄だったよ……だけど、その代償はあまりにも大きすぎた……さよならアンリ。君の勇気は忘れない……!!(どうあがいても変態