「カカオ豆よ! 私、初めて見たわ!!」
「同じく――――と言いたいんだけど、去年ジャガーからカカオ豆貰ったから初めてではないんだよねぇ……まぁ、チョコに変わるところは見たところ無いんだけど」
アビゲイルに手を引かれながら、カカオの木々に向かって進むオオガミ。
そんな二人を、遠くから見守るアンリとマシュ。何かやらかすと信じて、即座に対応できるように。とは本人達の談。
ランスロット卿は体調不良(自己申告)で逃走していた。
「確か、私達が加工できるような、特殊なカカオ豆なのよね。一体どんな事をしたのかしら。気になるわ」
「まぁ、それはこっちも気になるんだけどね。そもそも、チョコが耐えられない加工って何さ」
気になり始めると、追っていきたいこの二人。調べたい欲が湧いてくるが、まだ施設見回り計画はスタートしたばかりだ。
ここは気持ちをぐっと堪えて、次の場所へ進むべきだろう。
「カカオ豆……とっても気になるものだったわ……」
「うん。いずれこのカカオの凄さを調べに来るんだ……解明できないと思うけど」
「なんで追い付いたら悟ったような顔してるんだこの二人」
「何かあったんですかね……それと、先輩。そのカカオ豆はちゃんと工場に送っておいてくださいよ」
マシュの言葉はもっともだった。研究以前に、追い出されたら元も子もないわけで。
「……よし、次のところ行こうか」
「異常はなかったわ。ふふっ。次はパラケル君ね!」
「えぇ~……何を見るってのさ」
「視察ですし、何か企んでないか見るだけというのもありではないかと」
「ま、見ないわけにはいかないってことか」
「そうなりますね」
アンリは小さくため息を吐くと、拳を振り上げて楽しそうにしているオオガミとアビゲイルに、マシュと共についていく。
* * *
とはいっても、パラケル君は空中庭園のどこか。根本的に会えるかどうかわからないわけだ。
だが、そこはアビゲイルの発見力。彼女の言うままに進んでいくと、パラケル君を無事見つけられる。
「ふふっ。小さくてかわいいわよねマスター。私、もっと種類があっても良い気がするわ」
「ホムンクルスだけど、そこら辺は気にしないのかな……」
「むしろ、ホムンクルスで良いわ。だって、お話ができるじゃない」
「あ~……なるほど。まぁ、意思疏通は難しいけど、ちびノブも同じようなものか」
「そうそう。そのちびノブも欲しいわ! 私、お願いしてばかりだけれど、その代わりにこれからも頑張るから!」
「まぁ、ちびノブは昔捕まえたし、再度集め直すくらい問題ないよ」
「ありがとうマスター!」
アビゲイルはそう言って、オオガミに抱きつく。
アンリはそれを横目で見つつ、
「ま。まだ平穏だな。何か起こす感じもねぇ。もうしばらくは放置してもいいと思うぜ?」
「了解です。会議している様子も確認できてないので、大丈夫でしょう。何かあったら来ることにしましょうか」
「おぅ。じゃ、次だ次」
そう言って、アンリはオオガミを急かすのだった。
マイペースなオオガミとアビゲイル。それを監視しつつ名目上の理由をこなしていくアンリとマシュ……後衛部隊が優秀な件について……!!