「マスターマスター! ようやく受付が終わったのだけど、施設が取り壊されていくわ。もうおしまいなのかしら?」
「うん。チョコ生産も終わったから、女帝様が解体するってさ。今はその作業中」
パタパタと元気に走ってくるアビゲイルに、真実を誤魔化しながら伝えるオオガミ。
まさか本当は――が―――で、――の中に――がいて、今までずっと――に――――いただなんて言えるだろうか。いや、言えない。ここは誤魔化しておくのが一番だろう。
「そういえばマスター。私、結局女帝様に会っていない気がするわ? 顔も見ないままさようならというのはどうなのかしら……」
「ん~……一回も見てないで、一回も話していないなら、別に気にする必要ないんじゃないかな? 迷惑かけた訳じゃないし」
「でも、お礼を言うのも必要だと思うわ。だから、出来れば案内して欲しいのだけど。それとも、私は会っちゃいけないのかしら……?」
「うぅ……会わせたくなくて言ってるんじゃなくて、会えないと言いますか、会わせたくても制限に引っ掛かると言いますか……」
「……なにかしら……マスターにこれ以上追究したらいけない気がしてきたわ……」
なんとなく嫌な予感を感じてオオガミへの追究を止めるアビゲイル。これ以上は、何か触れてはいけないもののような気がしたのだ。
「ねぇマスター? 解体の作業、するんでしょう? 手伝ってもいいかしら?」
「まぁ、良いけども……何処からやろうか?」
「そうね……まずは……チョコ聖杯なんてどうかしら?」
不意に悪い顔になるアビゲイル。
オオガミは苦笑いになりつつも、とりあえず理由を聞いてみる。
「えっと、どうしてチョコ聖杯から?」
「だって、壊したとき一番面白そうだと思わないかしら?」
目が危なかった。本気で思っているのが分かるくらいには。
「ん、ん~……壊しがいはありそうだけども……まぁ、壊しに行こうか」
「えぇ、楽しみだわ。ふふふ……」
はしゃいでいるのか、機嫌が悪いのか、楽しんでいるのか、怒っているのか。
その真相は分からないが、不気味に笑うのだけは止めて欲しいと思うオオガミだった。
「……ねぇマスター。チョコ聖杯を壊すなら、きっとチョコ英霊も倒さなきゃよね?」
「どうなんだろ。聖杯を求めてる場合は向かってくるけど、そうじゃない場合はむしろ協力してくれるんじゃない?」
「そうかしら……とりあえず、全員倒せばいいのよね?」
「んん? 本当にアビー? 裏の方出てない?」
「どっちも私よっ。全く、マスターは失礼ね!」
結局、アビゲイルは頬を膨らませて、怒ったようにチョコ聖杯の元へと向かうのだった。
オオガミはなんで怒っているのか、よく分かっていないのだが。
チョコ聖杯君は、その後無惨な姿で発見されるのだった……