「うおりゃっ!!」
「きゃっ!」
ガゴンッ!! と音を立てて崩れ落ちる天井。
巻き込まれたアビゲイルは短く悲鳴を上げながら、しかし咄嗟に触手を伸ばして残っている天井に着地する。
「全く、ビックリするじゃない!! うっかり落ちかけたわ!!」
「若干狙ってた節があったんだが、やっぱ落ちないよなぁ……」
「アンリは悪い人ね……お返しよっ!」
「うごぁ!?」
門を開き、アンリの周囲の天井を一気に破壊して落とすアビゲイル。
アンリはアビゲイルの様に触手等の復帰手段が無いので、落ち続ける天井を蹴って壁に掴まる。
「こ、この野郎! オレの場合シャレにならねぇんだっつの!!」
「私を落としておいて、シャレも何もないわ!! 許さないわ!!」
「ふ、ふざけやがって……ちょっと待ってろ、すぐそっち行くからな!!」
「ふふんっ! アンリが来る前に終わらせるから、別にいらないわ!!」
「チックショウ!! 楽が出来そうだけど、その言い方はなんかムカつく!!」
ひょいひょいっと軽々動いて解体していくアビゲイル。
アンリも作業が全部終わる前にたどり着けるように、必死で登るのだった。
* * *
「……なんというか、あの二人、仲がいいのか悪いのか分からないよねぇ……」
「喧嘩するほど、と言う奴でしょうか。でも、何となくいつもアンリさんが死にかけているような……?」
「うん。それは思う」
何を思ったのか、軽いピクニック気分のオオガミとマシュ。シートを引いて、麦茶の入っている水筒を置いて、今朝作ったサンドイッチを食べながら解体の様子を見ている。
すると、
「ん~? マスター、何してんの?」
「ん? あ、新シンさん。今は工場の解体を見てるの」
「ふぅん? じゃ、お邪魔しようかね。いいかい?」
「私は先輩が良いなら構いませんよ?」
「じゃあ、どうぞどうぞ」
そう言って、新シンを招待する二人。
招待された新シンは、オオガミが中央に来るようにマシュの反対に座る。
「いやぁ、しっかし、俺達がマンドチョコラゴラを相手している間に、面白そうなことしてるじゃん。そろそろ終わるっぽいし、手伝えることは無いと思うけどね」
「まぁね。ってか、そっちはどうなの?」
「ん? あぁ、こっちも割と順調だぜ? って言っても、畑を潰すだけなんだけどさ」
「その潰すのが大変なんじゃないのかな……?」
「収穫するんじゃないから、叫ぶ前に壊せば問題無しって感じさ。俺以外にもカーミラとか、ランスロットとかいるしね」
マシュから麦茶を受け取り、飲みながら作業を見る新シンさん。サンドイッチもちょいちょいつまんでいる。
「あ~……それなら簡単……なのかな? まぁ、そっちはそっちで頑張ってもらうしかないよね。そのうち手伝いに行くよ。こっちは見張ってないと殺し合い始めそうな勢いだから……」
「あ~……まぁ、見てれば分かる位に仲悪いよなぁ。っと、じゃ、ちょいと休憩もしたし、俺はまた作業に戻るかな」
「うん。頑張って~」
「頑張ってくださいね」
手を振って、送り出す二人。新シンも振り返してくれた。
そう言って二人は工場に視線を戻し、直後、轟音と共に工場が崩れ去るのだった。
決め手はアビゲイルの触手だった。
新シンさんは、真名で呼ぶよりもしっくりくる不思議。
というか、どうしてうちのアンリとアビーは仲が悪いのだろう……?