「もうそろそろこのマンションともお別れね」
「記録があっても、それはそれ。実体験してるのとは違うからな~」
「まぁ、お別れは来るものです。それに、そのうちまた似たようなところに来ますよ」
「……正直、こんなマンションがいっぱいあったら、きっとそれだけで世界がピンチだと思うの」
わりとまともなことを言うアビゲイル。確かに、死霊蔓延るマンションそこかしこにあったら、それはもう、それだけで厄災レベルなのではないだろうか。
そんなことを考えつつ、オオガミ達はついに四千個を超えた黒猫フィギュアをまとめていた。
誰かがうっかり扉を開けたのだろう。とオオガミは考えていた。犯人はおおよそ目星がついている。現実逃避をしているような言葉を発している人物だろう。
「もぅ……お片付けくらい一人で頑張ってよマスター!」
「俺が散らかしたみたいに言わないでくれます!? そもそも、ご丁寧にぶちまけるのが何処かにいるのが原因じゃないかな!?」
「私の事かしら? もしかして、マスターは私の事を言っているのかしら……!?」
「いや、普通に考えてそうだろ。うっかりこの部屋を開けて黒猫大放出したのはアビゲイルだし」
「酷いわアンリ!! 私は気になって開けただけ。そこに黒猫さんがいっぱい詰まってるだなんて聞いてなかったわ!」
やいのやいのと騒ぎつつ暴れ始めるアビゲイルアンリ。ついでに巻き込まれているようでそもそも部屋に黒猫フィギュアをぶちこんだ張本人であるオオガミの争いを見つつ、マシュは地道に一つずつ回収していく。
そんな感じで、一人だけちゃんと頑張っているマシュを置いて、三人の争いは激化していく。
「大体、アンリだって一緒にいたじゃない。忠告くらいしてくれてもよかったと思うわ! だって、最初に片付けたときはアンリもいたんでしょ!?」
「おぉっと。こっちに責任転嫁してくるか。だが甘い。甘いぜ嬢ちゃん。なんせ、オレは止める間もなかったからな。オレの気付かぬうちに目を輝かせて凄い勢いで扉を開け放たれちゃ、オレの出る幕はないね」
「聞いてると凄い不思議なんだけど、なんでそんなことになるのさ……」
「私は面白そうな気配がしたから、何かと思って扉を開いただけよ。何も悪くないわ!!」
「オレはコイツが妙に上機嫌で災難に見舞われる気がしてため息を吐いたら、次の瞬間には左側から黒猫の波に襲われて沈んだ」
どうやら、話を聞いている限り、今片付けをしているのはアビゲイルが原因のようだった。
オオガミの片付けが雑だったのもあるだろうが、量が多いと言うのも問題だった。
マシュは呆れつつ、作業していた玄関部分がようやく終わり、奥への道が拓けてきた。まぁ、背後には黒猫フィギュアがたくさん詰まった袋が大量にあるのだが。
そんな時、ふと、マシュは閃く。
「……先輩。私、閃いたんですけど、これだけ多いなら、アビーさんに、この部屋の床部分に門を開いてもらって、排出される門の下で袋を構えてるのが一番楽じゃないですか?」
「……アビー。出来そう?」
「……思い付きもしなかったわ。たぶん出来ると思うから、やってみるわ」
そこまでは考えなかったと三人は思い、マシュの言われた通りにしてみる。
「うわぁ……なにこれスッゴい楽」
「今までなんで真面目にやってたんだろ……」
「三人とも、ほとんど何もしてませんから。ケンカしてただけですから」
「……門の維持が一番大変だと思うの……」
そこは、元凶なので頑張ってもらうことにしていただく。
マシュは、これで9割くらいは終わりそうだと、安堵するのだった。
実際、全部落とせはしないと思うんですよね……最悪余計なものまで落としますし。なので、いくらかは結局手作業になるわけです。マシュが一番苦労してる……
というか、うちのアビーちゃん、全く大人びたところがない……めっちゃ子供……