「ふぅ……良かったわ。明らかに危ないあの人は召喚されなかったみたい」
「えぇ、本当に良かったです。これで召喚されていたら、全滅してました」
オオガミとアンリを縛り上げて吊るして放置したマシュとアビゲイル。
石が30個と呼符が5枚無くなっていたが、結果的に存在が危ないあの人は召喚されていなかった。
これもマスターの普段の行いのせいか、はたまた。
何はともあれ、安全のままだった。
「とりあえず、しばらく反省してもらいましょう。具体的にはピックアップが終わるまで。リップさんを呼べないのは辛いですが、危ないあの人が来ないなら問題ないですね」
「私としてはどっちも天敵なのだけれど……まぁ、来ないなら問題ないわ」
スキップをしてしまうくらい気分がいいアビゲイル。
マシュはそれを微笑みながら見ているが、ふと、先ほど縛り上げた二人を思い出す。
確かにしっかりと縛り上げたはずなのだが、それ以前に、オオガミがほとんど抵抗しなかったというところだ。
何を企んでいるのか。アビゲイルがいるから逃げ出さなかったのか、それとも縄抜けの練習をしているのか。
ただ、オオガミは知らない。マシュも、オオガミに対抗するべく捕縛術を習得しまくっているのだ。簡単に抜けられるとは思っていない。
「マシュさん。どうしたの?」
考えていると、前に立って首をかしげて顔を覗き込むアビゲイル。
マシュは考えていたことを振り払い、何でもないと伝える。
「あんまり無理しちゃダメよ? マシュさんが頑張ってくれているのは知ってるけども、ダメなときはちゃんと休んでね?」
「はい。自分でちゃんと管理もしていますし、無茶はしないように心掛けていますよ。ただ、私が休憩しているときに先輩が何かやらかすと、真っ先に私に連絡が来るので、出来れば自重してほしいです」
「うぅん……じゃあ、マシュさんが休んでいる間は私が対応するわ! 受付に勤めていたんだもの。たぶん大丈夫よ!」
「受付とこれとはまた別のような気もしますけどね……? ですが、そうですね。よろしくお願いします」
「えぇ、任されたわ!!」
胸を張り、自信満々に請け負うアビゲイル。
ただ、そんなアビゲイルの後ろをこそこそと通る影を、マシュは見てしまった。
「……アビーさん。先輩達はちゃんと捕縛しましたよね」
「もちろん。絶対解けないはずよ!」
「……じゃあ、先輩が抜け出してるわけ無いですよね」
「当然……待ってマシュさん。それを聞くってことは、つまり……」
「……そう言うことです」
瞬時に振り返るアビゲイル。そこにはいつの間にか抜け出したオオガミとアンリの姿が。
見つかったことに気付いた二人は、次の瞬間全力で走り出す。何処へ向かっているのかなど考える暇はない。とにかく逃げるのみだ。
当然、それを見送るアビゲイルではない。マシュを置いて、二人を追いかけ始めるのだった。
「……これは、たぶん日付が変わるまでに捕まえられますよね」
一人残されたマシュは、冷静にそう呟くのだった。
アビーの本気の追跡からは流石に逃げられないですよねぇ……門を使われたら一発で捕まる……