「……やばい、ついに頭おかしくなったかも」
「どうしたんですか先輩。いきなりそんな、今更な事を……」
「マシュが心の底からそう思っているのは分かった。後でひっそりと仕返しするのは確定として、そうじゃないんだ」
互いが互いに悪意のような、一周回った信頼のような会話をしつつも、とりあえず話を聞いてみるマシュ。
「何というか、突発的に、エリちゃんの歌を聞きたくなった」
「ダメです先輩。それは流石にやっちゃダメです。明らかにその道は死亡確定です」
「やっぱり? 死ぬよねぇ……でもさ、何となく、聞きたくなってしまったんだからしょうがない。禁断症状だよ」
「歌を聞いて死んで、歌を聞かなくても死ぬ……どうするんですか先輩。どうあがいても死ぬじゃないですか!!」
「まぁ、どうせ死ぬなら聞いて死ぬのが本望かと」
「……そ、そういう人でしたよね……えぇ、はい。それで、今エリザさんはいませんけど、どうするんですか?」
「そう、そこが問題なわけです……エリちゃんいないからね……更に言えば、こうやって縛られてるからね……」
「……そうですね。ですが、昨日夜中にひっそりと抜け出していたというのを聞いたんですが、どうなんですか?」
「…………」
目を逸らすオオガミ。バレているのが予想外だったようだ。
「はぁ……先輩が逃げ出すと思ってるに決まってるじゃないですか。当然、見張りはいますよ」
「……なんで、マスターよりも後輩の方が信頼高いんだろうね?」
「それは、あれですよ。普段の行いですね。というか、どうして見張りがいないと思ったんですか……」
「いや、ちゃんと見張りがいないかどうかを確認したんだよ? いなかったはずなんだけどなぁ……」
「隠蔽工作くらいは普通にしますよ……」
アサシンの全力の気配遮断を使ってもらっていたので、それでバレたらオオガミは気配感知を持っているのか。というレベルだ。
流石にそこまでは無かったようだとホッとする反面、オオガミが抜け出したのは事実なようで、内心どうしたものかと考えるマシュ。
「全く……どうやったらこの状況から抜け出せるんですか……」
「それは、企業秘密だよ。流石にこれを対策されると打つ手無しなんで」
「ですよね。じゃあ、仕方ないので何とかして暴いてみますよ」
「あ、ホームズの力を借りるのは禁止だからね」
「聞いても教えてくれなさそうですけどね……まぁ、召喚をさせなければ勝ちなので。あんまり気にはしないんですけどね。本当に止めるつもりになったら何とかします」
「こ、怖いわぁ……」
オオガミはそう言うと、ため息を吐くのだった。
ワイヤーで縛られてるのに脱出……書いてて、どうやったんだろう。と思ったのはここだけの話。奴はもう、ほとんど人間じゃねぇ……