「あ、あの、本当にいいんですか?」
「はい。その竹刀なら安全ですので、全力でやっちゃってください」
「は、はぁ……分かりました。では、いきますね!」
しっかりと竹刀を握り、攻撃を始めるセイバーリリィ。
対象は、木にぶら下げられている白い物体。実は中にオオガミが入っていたりするのだが、彼女は知らない。
もちろんオオガミは外のようすが聞こえているので、自分に危機が迫っているのも分かっていた。ならば、やることはひとつ。
「はぁっ! ……あれ?」
横薙ぎの一閃。しかし、突如として的が大きく動いたため、空振りに終わる。
疑問に思うリリィ。振り返り、マシュを見ると、笑顔過ぎてむしろ不気味な顔をしていた。
反射的に目を逸らしたリリィは、気のせいだったのだろう。と思い直して再挑戦。
「てぇい!」
袈裟斬り。しかし、的は明確な意思を持ってかわす。
確信した。何かが入っていると。
「あの、マシュさん」
「はい、なんでしょう?」
「この中に誰か入っていますか?」
誤魔化しはしない。単刀直入、聞いてみる。
そして、返ってきた答えは、
「先輩が入ってます」
「せん……ぱい……? さ、サーヴァントの方ですか?」
「いえ、マスターです」
「マスター!? なんでこの中に!? いえ、召喚された時点で不思議には思ったんです! マスターいませんし、変なのはぶら下がってるしで!! と、とりあえず助けないと……!!」
「あぁ、いえ、大丈夫ですよ。今のこの状況は自業自得もとい、自主的にアルトリアさんの修行を手伝いたいと言う先輩の申し出ですから」
「えっ……いえ、でも、がっちり縛られて……」
「それで捕まえていられるのなら、苦労しないんですが……平然と脱出できるので、もし本当に当たりそうになったら脱出すると思います。なので、先輩に当たるまで竹刀を振り続けると、自然と鍛えられると思いますよ? それに、最初から伝えなかったのは、そうしないとやりにくいと思うだろうという、先輩の配慮です」
「マスター……そうまでして私の修行を手伝おうとしてくれるだなんて……分かりました。では、私も全力でいきますね!!」
もはや迷いはない。そんな勢いで振り続けられる竹刀を、オオガミは見えていないにも関わらず紙一重でかわしていく。
マシュはその様子を見ながら少し距離をとり、座り込む。
すると、隣にアンリがやって来て、同じく座り込むと、
「さりげない報復しちゃってまぁ。いや、あの程度で倒れるようなマスターじゃねぇってことは分かるんだけどな?」
「えぇ。なんというか、あの回避技術は一体どこから来るのかって思いますよね……」
「全くだ。つか、マジでマスターは手伝いたいって言ってたのか?」
「当然、言ってません。言ってませんが、言うと思うので溢れんばかりの善意でやっておきました」
「それを善意って言い切るの、すげぇと思うわ」
アンリは苦笑いで、マシュの事を見るのだった。
若者の人間離れが激しい……そして、何の疑いもせずに口車に乗っちゃうリリィちゃん。それはそれとして、マシュが平然と嘘を吐く悪い子になっちゃってるんですが。いつの間にこんな真っ黒に……