「うりゃー!!」
「甘いわ」
虚空の開いた門から飛び掛かるアビゲイル。襲撃されたエウリュアレは、しかし平然とオオガミを盾にする。
当然、盾にされたオオガミにとっても、盾を出されたアビゲイルも想定外。そのまま何も対応できないまま距離はどんどん縮まり、
「はぐぁっ!?」
「うきゃっ!?」
ぶつかる頭と頭。
短い悲鳴と同時に、アビゲイルの勢いによって押し倒されるオオガミ。
エウリュアレはそれを見て笑みを浮かべると、
「あらあら。奇声を上げて飛び出してきたと思ったら、マスター押し倒すのが目的だったのかしら?」
「ち、違うわっ! 私はマスターを押し倒すつもりじゃなかったのよっ! というか、私は貴女を狙ったのだけどっ!!」
「でも、私には当たってないもの。もう少し努力するべきね」
「むがー!!」
オオガミを踏み台にしつつ再度飛び掛かるアビゲイル。しかし、エウリュアレは普通に回避して、オオガミの上に座る。
何度もダメージを蓄積させられたオオガミは、そろそろ限界かもしれない。
「ふふふ。あぁ、本当に面白いわね、貴女。前は貴女みたいな子はいなかったから、今すっごく楽しいわ」
「そんな……どうしてかしら、この三ヶ月、積み上げたヒロイン力が崩れ去っていく気がするの……!!」
「あら、私に勝てるとでも思ったのかしら。残念だけど、今のところはまだ私のものみたいよ。もっと頑張りなさいな」
「なんて自信なの……!? ずるいっ! 私もそれくらいになりたいのだけど!」
「いえ、その、私としては、とっても不思議なんだけどね。そもそも聖杯だって、なんで渡されたのか分からないもの……」
遠い目をするエウリュアレ。なお、エウリュアレに聖杯を捧げた原因で、且つ今下に敷かれているオオガミは、この状況を見なかったことにしようとしている。
「さて、そろそろ良いかしら。再召喚されてからお菓子も食べられないもの。お茶もないみたいだし、私としては不満なの」
「えぇ……何をするつもりなの……?」
「そうね。私のストレス発散に付き合ってもらおうかしら。マスターは無理矢理連れていくとして、護衛してくれたりしないかしら?」
「拒否したら……?」
「それは言えないわ。だって、分からない方が面白いでしょ?」
「エウリュアレさんは悪い人ね……」
「残念だけど、私はそこまで悪い人じゃなかったりするわ」
これで悪い人じゃないのならなんなのだろうか。とオオガミは思うが、思った瞬間に脇腹に蹴りが入った。
しばらく考えた後、アビゲイルはエウリュアレの提案に乗ってついていくのだった。
冷静に考えると、エウリュアレにこうやって絡む子っていなかったんだなぁって、書いていて思いました。