「むに~」
「むぃ~……」
「……何やってるのよ、貴方達」
楽しそうにアビゲイルの頬を引っ張るオオガミ。
エウリュアレはそれを見て、呆れたような顔をしていた。
「いやぁ……アビーの頬を引っ張るのが楽しくて……」 「アビーの表情が死んでいるのだけど、大丈夫かしら……」
「……まだ殴られてないから平気だと思う」
「殴られるレベルは、アウトを通り越したアウトなのだけど」
やれやれ。と首を振るエウリュアレ。
だが、オオガミは一向に止めそうにない。
「ふにふにで柔らかい、餅のような感触のアビー。エウリュアレも触ってみる?」
「いいえ、別にいいわ。だって、いつでも触れるもの」
「ぐぅ……同性お姉さん系立ち位置の特権行使……! しかも、慕われているというのが合わさり、最強に見える……!!」
「貴方のそれは、マスターという立場を使ったパワハラ?」
「合意の上だよっ!」
「もう一度言うけど、目が死んでるのだけど」
それもそうだろう。なんせ、アビゲイルの頬で遊び始めてからかれこれ30分ほど経っているのだ。想像斜め上過ぎて、遠い目をしてしまうのも仕方ないだろう。
「はぁ……いい加減、離してあげなさいよ。暇なら探索すればいいでしょ?」
「うむむ……仕方あるまい。何時までも触っていたいけど、やり過ぎると殺されてしまいそうだからね……止めるとします」
そう言って、手を離すオオガミ。
解放されたアビゲイルは、涙目で頬をさすりながら自然な動きでエウリュアレの後ろへと逃げ込む。
「……自然と逃げられた……」
「当然でしょうが。自分がやったことを省みて言いなさいな」
「うん、まぁ、そうなんだけど、エウリュアレに言われると納得いかない」
「ここから落とすわよ?」
「空中庭園ですよエウリュアレ様! 流石に死にます!」
「えぇ、そうね。それがどうしたのかしら?」
「うん、悪魔の微笑み!」
とても楽しそうに笑うエウリュアレを見て、オオガミも思わずにっこり。その目には涙があったような気もするが、誰も気にしない。
「まぁいいわ。とりあえず、マスターは周回に行って。コインが終わったからって、素材の回収は終わってないわよ?」
「了解ですっ! 即座に行って参ります!」
そう言うと、オオガミは走っていき、すぐに見えなくなる。
エウリュアレはそれを見てため息を吐くと、
「全く。マスターもマスターだけど、アビーもアビーよ。あんな表情になるまで引っ張られ続けなくてもいいのに」
「その、なんていうか、マスターが凄い楽しそうで、止めるタイミングを逃しちゃったの……正直、エウリュアレさんが止めてくれなきゃ永遠やってたかもしれないわ……」
「……そうなの。まぁ、あっちはあっちで止めるタイミングを見失ったようにも見えたけどね……どっちもどっちかしら。とりあえず、追いかけましょうか」
エウリュアレはそう言うと、アビゲイルを連れてオオガミが去っていった方へと歩き始めるのだった。
うぅむ、後は素材集め……長い戦いになりそうだぜぃ。