「ふふふ……今日のおやつはマドレーヌ~」
すこぶる上機嫌なアビゲイル。
それを見て、エウリュアレは遠い目をしながら、
「今日のはアビー優先よ。えぇ、私が悪かったわよ……」
「珍しくエウリュアレが反省してるっていうかやさぐれてるっ!」
「マスター。後で空中庭園ね」
「未だ残ってるからってそこに呼び出して何をするつもりですかね!?」
「それは当然、分かりきってるじゃない」
「もう高高度逆さ吊りはこりごりなんですけど!」
「じゃあ発言には気を付けなさい?」
「それは無理!」
「じゃあ諦めなさい」
「そんな非情なっ!!」
許されないオオガミ。自覚があっても止められない止めない止めるわけがないという、自重しないスタイル。
エウリュアレもそれを分かっているので、言うには言うが、治るとは一切思っていない。
「うぐぐ……カルデアにいる頃からお菓子を作ったりしてたのに、なんで逆さ吊りにされるんだろ……」
「普通に、自分の普段の行いを振り返った方が良いと思うの」
「……アビーに言われると、妙に精神がやられる……」
「不思議なのだけど、私に言われても精神ダメージ受けないのに、アビーだとダメージ受けるっていうのは納得いかないんだけど」
「エウリュアレはほら……そう言う系だし」
「そう言う系って、どういう意味かしら……凄い不満なのだけど……」
「エウリュアレさんは精神攻撃系って事ね!」
「外宇宙的なアビーの方が絶対危険な気がするのだけど……」
「アビーはねぇ……侵食してくるよねぇ……」
「酷いわ。まるで私が侵食して内部から洗脳しようとしてるみたいだわ」
「大体あってる」
「前に洗脳って言いかけてたというより、もろに言ってた子が、どうしてそう思われてないのかと不思議なのだけど」
「何というか、大変なんだな、マスターと言うのは」
どこからか現れるジーク。先ほどまでは何かを取りに行っていたらしくいなかったのだが、戻ってきたみたいだ。
「ジーク、何時の間に戻ったの?」
「今戻って来たばかりだ。きっと必要だろうと思って、いくつか食材も持ってきた。これで大丈夫だろうか?」
「どれ? あ~……全然大丈夫。ある程度なら新所長に回復してもらおう」
「お肉を一瞬で霜降りに変えるお肉魔術、凄いわよね。マスターも使えるようにならないかしら?」
「おっと。アビーの無垢な視線が心に刺さるぞぅ?」
本当に無垢な視線だろうかと突っ込みたくなったのが二名ほどいた気がしなくもないが、そんなことはお構いなしなアビゲイル。向けられている本人がそう思っているのだから、それが正解だろう。
「まぁ、あの魔術は新所長のアイデンティティーだからね。奪うのはいけないんだよ」
「マスターの場合、覚えるのが面倒なだけにも思えるけどね?」
「うぐっ……ま、まぁいい。とりあえず、完成したマドレーヌから運んでいこう……アビー、手伝って?」
「分かったわ!」
強引に話を逸らし、オオガミはアビーと共に逃げるのだった。
啓蒙が高まりそうなアビーの侵食。彼女はきっと、某ゲームをやると聖杯地下暮らしをすることになるのだろう……私、血晶石厳選とか、やったことないんですけどねっ!