「……マシュ。助けて」
「一気に集まってきましたね……狙ってたんでしょうか」
スタッフルームを出た瞬間に捕獲されるオオガミ。
右腕をエウリュアレに、左腕を茶々に、そして背中にアビゲイルがくっつき、もはや新手の魔物のごとき状態だった。
マシュはそんなオオガミを助け出そうとし、後ろからアナスタシアに手を引かれる。
「マシュさん、向こうにラムネというものがあって気になったのだけど、一緒に行きましょ?」
「そう、ですね。行きましょうか。じゃあ先輩、行ってきます!」
「うん、思いっきり見捨てられたね! でも心当たりしかないから泣きそうだよチクショウ!」
瞬時に見捨てられたオオガミ。
当然追いかけることなど出来るわけもない。張り付いた三人のパワーは尋常じゃなかった。
「……で、なんで捕まってるんでしょ。教えてエウリュアレ」
「ノーコメント」
「えぇ……じゃあ、アビーは?」
「考えないで良いのよ。別に、みんなマスターと店を回りたいだけだし」
「あぁ、うん。なるほどね……まぁ、マシュもアナスタシアと行っちゃったし、こっちはこっちで行こうか。で、エウリュアレ。盗んだ財布はどうしたの?」
「……ちょっと何の事か分からないわ」
「……無くしたの? それとも中身が無くなったの? どっち? 本当のことを言って?」
オオガミの雰囲気の変化に、瞬時に邪魔にならないように離れる茶々。なお、アビゲイルは背中に背中に張り付いたままだった。
問い詰められるエウリュアレ。頬をむにむにと引っ張られても、意地でも視線を合わせようとしない。
「いえ、その、財布は確かメドゥーサに渡したはず……なんだけど、渡ってないのなら、たぶんまだ持ってるんじゃないかしら……」
「なるほど……いや、別に無いと困るわけじゃないんだけどね。一応エウリュアレに渡したのとは別の財布はあるし」
「マスター流石じゃん。分割管理とか、茶々ビックリ! やらないものだと思ってた!」
「いや、そりゃ、エウリュアレが遊ぶお金を出してるのは俺だし。当然分割くらいするよ。だって全額渡したら使い切るのがエウリュアレだし」
「なるほど茶々と同じか!」
「マスターの財布を奪うってところが十分問題だと思うの」
「私も加減くらいするわよ……! 何でもかんでも全部使うわけ無いじゃない」
「うん、まぁ、渡してる財布の中身が毎度無くなってるのを見るに、嘘だと言うのは分かる」
「えぇっ!? そんなに無くなってる!?」
「まぁ、エウリュアレじゃ中身は分からないよね! だって自分で払ってないし!」
茶々はそう言って笑うのだった。
そして、そんな茶々の脛を、エウリュアレはひたすら蹴り続けるのだった。
ちゃんと節度を守った料金を渡してますよ? えぇ、そんな大金は流石に渡しませんって。