「ふぅ……ようやく完成ね。良い出来だと思うわ」
「何してくれてるんですかアナスタシアさん! 公開処刑ですかそうですか!?」
かき氷屋の隣に、氷の彫像1/1スケールの水着マシュが鎮座しており、クオリティが高い故に尚更赤面し砕きたい衝動に駆られる。
しかし、そこはアナスタシア。薄く、しかし妙に硬い氷の壁で、見事にマシュの攻撃を防ぐ。
「あら、如何にマシュさんとはいえ、この傑作を砕かせたりしないわ。夏の暑さにだって耐えさせて見せる……!」
「そんな覚悟要りませんから! 諦めて溶かされるか今ここで砕かれるかしてください!」
「お断りよ。ちゃんと自力で彫ったんだもの。せめてマスターに見せるまでは保存するわ」
「なんて事を……!! 先輩が来たら、自動的にエウリュアレさんや茶々さん、アビーさんも集まってくるじゃないですか!恥ずかしいので却下です! というか、どうしてモデルが私なんですか!」
「だって、私自身をモデルにしても、面白くないもの。やっぱり、作ってるときに楽しい方が良いに決まってるわ」
「先輩でも良かったと思うのですが……!」
「無理よ。だって、完成したら絶対盗まれるわ」
「あ、なるほど。確かに想像できます。具体的には真っ先にアビーさんが盗んでいきそうです」
犯人まで特定できるレベルの信頼性。
溶岩水泳部並みに危ないと思われているアビゲイルは、果たしてどこに向かっているのだろうか。
「で、ですが、エウリュアレさんたちでも良かったのでは……?」
「そうね……エウリュアレさんなら行けるかもしれないわ。自分の像が作られて嫌な神様はいないでしょうし。でも、他は無理ね。マシュさんみたいに障壁が間に合わないわ。特に茶々。彼女は氷を溶かしてくるから、どうやっても無理よ……本当、どうしましょうか……」
「……とりあえず、エウリュアレさんの像と私の像をチェンジで」
「それは無理」
「そんなっ」
意地でもマシュの像を撤去しようとしないアナスタシア。
傑作だったのが問題なのだろう。アナスタシアの目は本気を物語っていた。
「じゃあ、交換でどうでしょう……このカメラでどうか、手を打ってください……」
確かカメラが好きだったような。というおぼろげな記憶を頼りに、記録用の予備に持っていたカメラを渡すマシュ。
すると、アナスタシアは、
「……仕方無いわね。ここは譲ります」
そう言ってマシュからカメラを受け取り、流れるようにマシュの像を写真に納め、360度撮った後に氷像を氷の塊に戻す。
「ふふふ。これで完璧ね。マシュさんの像の写真も手に入れ、カメラも手に入れて、これでようやく思いっきり遊べるわ」
「あ……な……まさか、アナスタシアさん……このために私の像を……!?」
「いいえ、そういうわけではないわ。たまたま、偶然というものよ。だって、マシュさんがカメラを持ってるだなんて思ってなかったし」
「じゃあ、私の像は単純に作りたかっただけなんですね……いえ、それはそれでどうかと思いますけど!」
「まぁまぁ。エウリュアレさんのも作るわ。それで良いでしょう?」
「な、なにかが違う気がする……!」
その違和感に気付けなかったマシュは、言われるままにアナスタシアと一緒にエウリュアレの氷像を作るのだった。
アナスタシアと友好を深めるマシュ……そしてさりげなく危険人物扱いされているアビー……