「いよっす。みんなのアンリさんだ」
「今日は二人に増えてサポートするぜ?」
「え……え……? アンリが二人……? あれ、いつからここは同一人物が同時に出現できるように……!?」
オオガミの前に現れた二人のアンリ。
しかし、宝具を重ねたのは数ヵ月前の事だ。つまり、唐突な仕様変更ということだろうか。
「いやぁ、朝起きたら増えててさぁ」
「別段害は無さそうだし、作業を手伝ってもらおうかと思ってさ。まぁ明日には治ってんじゃね?」
「え、あ……う、うん。マシュを困惑させないようにね……?」
「そりゃあ」
「保証しかねるな」
「えぇ……」
そう言って、二人のアンリがオオガミの隣を通り過ぎ、倉庫へ入ろうとしたときだった。
「あっ」「げっ」
「? アンリが二人……?」
偶然にも、倉庫から出てきたのはアビゲイル。
出てきた人物に気付いたアンリは、片方は瞬時に、もう片方はワンテンポ遅れて反応し、後退りをした。
そして、即座に反応した方のアンリ(以下アンリA)は、少し焦った様子で、
「あ、あぁ、そうそう。朝起きたら二人に増えててさ。別段問題もねぇし、整理の時に役立つじゃん? それで、手伝ってもらおうと思ってさ」
「ふぅん……? でも、仕事は今終わったわ。代わりに私と遊びましょ?」
「……それは、遠慮させてもらうぜ」
「オレもちょっと用事があるんで、ここらで失礼させてもらうわ」
「逃がさないわ?」
直後、触手によって逃げ場を塞がれる二人。
見ていたオオガミは、その急展開を目を輝かせながら見守っていた。
そして、その状況で先に動いたのは、先ほどワンテンポ遅れて反応した方(以下アンリB)。
「よ、よし、そうだ。良いことを思い付いた。流石に二人は要らないだろ? だからさ、片方だけにしようぜ? どっちかだけだ。それで良いだろ?」
「おまっ、何言って」
「分かったわ。そうしましょう」
「ま、マジかよ……」
苦い顔をするアンリAと、頬を引きつらせているアンリB。
アビゲイルはその二人を改めて見た後、
「それじゃあ、こっちにするわね」
そう言って、背後から突然現れた触手によって思いっきり地面に叩き伏せられたアンリA。
触手が退いた後もピクリともしないが、おそらく生きているのだろう。
隣にいたアンリBは、その重たい一撃が真横を通り過ぎたことで、少しも移動する気はなかった。むしろ、この状況で下手に動いたら死ぬとまで幻視できるほどだ。
そして、アビゲイルは動かなくなったアンリを担ぐと、
「じゃあね偽者さん。後、あまり変装しないことをオススメするわ」
「ハハッ、お見通しってことか」
そう言って、変装を解くアンリ。
正体は新シンさんだった。
「完璧に変装できてたと思ったんだけどなぁ?」
「そうね。じゃあ、次はマスターに変装して、二人で一緒にエウリュアレさんのところに行くのをオススメするわ」
「……死ねってことかい?」
「さぁね?」
そう言って、アビゲイルはアンリを抱えて何処かへ行ってしまうのだった。
残された新シンさんは、少し考えたあと、
「まぁ、やってみるのも一興か」
そう言って、オオガミが隠れている場所を見るのだった。
アビーだから本人を狙うけど、果たしてマシュやエウリュアレに同じことをして生きて帰れるのか。新シンさんの探求は続く……