「――……ふふっ」
そう言って、真っ赤に染まった手のひらを向けてくるアビゲイルに、オオガミは茶々を盾にして逃げ出した――――。
* * *
木々の間をすり抜けるように走って逃げる。
後ろからは木々が倒れるような音が響いてきて、それがだんだんと近付いてくる気配に冷や汗が流れる。
おそらく、茶々は既にやられたのだろう。後誰が残っているのか。それを考えつつ、しかし速度は一切緩めない。
「はぁっ、はぁっ……あ、明らかに狙われてるよね、これ……!」
迷いなく近付いてくる音は、確実にオオガミを狙っていると確信できる。
果たして何を元に追ってきているのかを考え、足跡だと判断したオオガミは、近くの木に登り、右側へと逃げていく。
「これで様子見……でも、これでもまだ追ってきたらどうするか……」
そう言いながら、ダミー人形を作る。
音を確認してみると、音は止まっている。つまり、動いていないか、木を倒していくのを不毛と捉えたかの2択。
それを確認すると同時に完成したダミー人形を遠くへ投げ、撹乱する。
「さて、早々に茶々を生け贄にして逃げたは良いけど、敵がアビーなのは相性が悪いよね……」
逃げ切れる可能性はかなり低い。当然、武装も魔術礼装のみであり、それ以外は自力で現地調達するしかないわけだ。
「……後、五分」
そう、息を整えるために立ち止まってから呟くと、目の前に赤く塗れた手が出現し、
「見つけたわ」
「っ!!」
反射的に後ろに下がるが、ここは木の上。後ろに足場などあるわけも無く、自然と落ちる事になる。
だが、仮にも人理を救ったマスター。必死に手を動かし、何とか木を掴み、速度を減衰させながら落ちて行き、受け身を取って軽傷で済ますと、そのまま逃げ始める。
普段なら気にもしないほど短い時間ではあるが、この状況においてはかなり危ない。
なので、限界まで近付かれたらガンドで防ごうと考え――――
「えいっ」
「グフッ!」
横から飛び出してきた誰かに止められ、それを引き剥がす時間も無く、アビゲイルに捕らえられるのだった。
* * *
「だぁ~~!!! 捕まったぁ~~!!」
アビーの手形の形で顔を赤く塗られたオオガミ。
それを見て、楽しそうに微笑むエウリュアレと呆れたように見下ろすアビゲイル。
「ふふっ。やっぱりそう動くとは思ったのよ」
「エウリュアレまでは意識を割いてなかった……チクショウ、アビーだけ考えてれば行けると思ったんだけどなぁ……」
「エウリュアレさんも鬼なのに、気にしないなんてどうかと思うのだけど」
「開幕茶々を犠牲にして逃げるのはちょっと予想外だったけどね。ふふっ。今の貴方と同じように顔を赤くされて怒ってるわよ?」
「流石に言い訳できないって……うん、後で謝っておこう……」
「えぇ、そうした方が良いわ」
エウリュアレはそう言って、オオガミを助け起こす。
「さて、鬼ごっこ終了。一つ気になったのは、どうしてアビーが始まった時に不穏な笑い方をしていたのか。これが分からない……」
「雰囲気的なモノがあるでしょ。あの方が雰囲気あるって思ったの」
「そうね。あの方が雰囲気あったわ。というか、それで茶々を置き去りにしてるんだから、効果はあったでしょ?」
「まぁ、うん。確かに効果はあった。良く思いつくよ、本当に」
「この鬼ごっこも、良く思いついたと思うわ。というか、この赤い液体、本当にどこで手に入れたの?」
「……ノーコメントで。よし、帰ろうか」
「え、本当に何? なんでそこでスルーするの? ちょ、洗えば落ちるわよね!?」
エウリュアレが聞くも、オオガミは無視して歩いて行くのだった。
気付くと鬼ごっこしてた……何を言ってるかわからないと思いますけど、書いてる私も分からない……