「で、なんであんなところにいたのかしら」
「……事故です」
エウリュアレの冷たい声と、アナの冷たい鎌が首に当たる感触に冷や汗をかきつつ、オオガミが答えた。
バラキーは既に簀巻きにされて宙吊りの刑に処されているが、おそらくすぐにやって来るだろうBBに渡されて惨劇が起こることは確定していた。
「そう……どういう事故なのかしら」
「……崖が滑りやすくなっていたのと、真上が女湯だったのと、仕切り直しが思わぬ方向に向かっていったことですかね」
「ふぅん……で、ゼロタイム迎撃を受けて今ここで捕まっていると。なるほどね。有罪、アンリと同じ目に遭わすわ」
「脳天一撃で即死じゃないですか! 無慈悲な!」
一撃で確実に殺すという意思を感じるエウリュアレの視線に、目を逸らすことも出来ないオオガミ。
だが、エウリュアレはため息を吐くと、
「まぁ良いわ。別に、そこまで怒ってもないし。そもそも実害特になかったしね」
「そうじゃなぁ……まぁ、着地の衝撃で落ちてきた雪で、景色が塗りつぶされたくらいじゃし、それ以外の被害は無いに等しいし。儂としては別に構わんのじゃけど」
「うん。むしろ、向こうで殺意全開にしているBBを見て、一気に怒る気力が無くなったんだけど……」
「まぁ、あれだけ憤慨しているとな。ただ、同じことをされたら私も同じくらい怒りそうだ」
「そんなに簡単に怒っても良いことはないと思うわ。三回目で怒るようにしましょう、女神様」
「なんで仏ソウルを植えようとしてるんじゃそこの皇女」
「まぁ良いじゃん叔母上! お怒りゲージがあるなら怒られにくくなるし、お得だよ!」
「う、うぅむ……まぁ、それで良いのなら良いんじゃが……」
後方ではやって来たBBが弱い攻撃をひたすらバラキーに叩き込むという拷問のようなことを行っていた。
スカディがあのBBと同じくらい怒るということは、もしや体の端からじわじわと凍らされるのではないかという恐怖に駆られるのだが、流石にそこまではしないだろうと思い、気を落ち着ける。
「それで、どうするの? このまま解放する?」
「まぁ、バラキーが十分罰を受けてるし良いんじゃない? 茶々知らなーい」
「そう……じゃあ、縄を解いてあげて。あぁ、それと、帰ったら覚えておきなさいよ、マスター?」
「エウリュアレは許してくれてないよねこれ! 一人だけ目が怖いもん!」
「姉様。私も手伝いますね」
「アナのそれは単純にエウリュアレへの信頼しかないから……! ある意味純粋だから……!」
「もうその純粋は手遅れだと思うんじゃけど」
「もう狂信の域だよね」
「もう手遅れだったか……!」
分かりきっていた気もするが、手遅れなことを再認識したオオガミは、そんな事を言ったがばかりに怪我が増えることになるのだった。
さりげなく大ダメージを受けてるバラキー。まぁ、自業自得ですけど。
ちなみに、オオガミ君は女湯と判断するより早く意識を意識を飛ばされたので、そもそも女湯に入ったかは目覚めた後の推測だったりします。惜しいことをしたなオオガミ君め。