「ついにマルタさんも出陣ですね!」
「一回だけ! 一回だけだから!! 実質あってないようなものだって!」
「でも出陣ですからね! とりあえず次回も楽しみにしてますね!!」
「だから一回だけだって言ってるでしょ!」
必死で弁解するマルタと、聞く耳を一切持とうとしないオオガミ。
そして容赦なく突き刺さるマルタの拳に、反応する事が出来ずに顔面に直撃を受け、倒れる。
「ハァ……ハァ……あ、やっちゃった……とりあえず、奥の部屋にしまっておけばバレないわよね……」
一人頷き、誰もいないことを確認して素早く投げ込む。
軽く手を叩いて何もなかったかのように戻る。
「あ、マルタさん。マスターを見なかったかしら」
「えっ」
今しがた殴り倒したオオガミの事を探しているアナスタシアに会ってしまったマルタ。
アナスタシアはマルタがオオガミを殴り倒したことなど知るわけも無いので、マルタの反応に首を傾げている。
「どうかしたのかしら?」
「い、いえ、何でもありません。マスターは……寝ているのではないでしょうか。私は見てないですね」
「そうなの? おかしいわね……マルタさんを煽りに行くって言って行ったのに、すれ違いになったのかしら」
「あぁ、だから――――いえ、そうですね。たぶんすれ違いになったのかもしれません。私はやることがあるので、見に行ってもらえますか?」
「まぁ、そうね。全く。マスターったら、今日も体力作りをするって言ってたのに、疲れたのかしら」
「禁止令出てもガン無視してやるって所に彼らしいわ……それじゃあね」
「えぇ。また後で」
そう言って、その場を離れるマルタ。
入れ替わる様にアナスタシアはマルタが出てきた部屋を探しに行く。
マルタはというと、用があるとは言ったが、実際のところは何もない。
なので、適当に外を歩き回るくらいだ。
「お、聖女様か。密林の雪景色に聖女様たぁ映えるが……しかし、薄着だと冬って感じがしねぇな。寒くないのか?」
「貴女は……葛飾北斎、東方の画家でしたか。こんなところで何をしているんですか?」
地面に座り、紙に筆を走らせる北斎に会ったマルタは、近くに座りつつ質問に質問で返す。
「そりゃあ、画家が紙の前で筆を持ってるってこたぁ、やる事は一つしかねぇだろ。見たまま、絵を描いてるのサ」
「なるほど……あぁ、一応答えておきますが、ちょっと寒いです。霊基の問題で服を着込めないのでこういう状況と言うだけです」
「あ~……そりゃ難儀だな。ご愁傷さまだ」
そんなことを話しながら、マルタは時間をつぶすのだった。
流石のマルタ神拳を直撃して倒れないほど人間辞めてないですよ。いえ、まぁ、死んでないというのは、それはそれで問題な気もしますけど。