「ほいっ」
「はぐっ!」
投げられた饅頭を口で見事に受け止めるバラキー。
そして、よく噛んでから飲み込むと、不満そうな顔で、
「さては汝、吾の事を犬かなにかと勘違いしてないか?」
「いやいや。そんなことないって。ただ、うまく食べるものだから面白くなってきちゃって」
「流石に食いにくいのだが。あと茶をくれ。喉が乾いた」
「はいはい。用意はしてるよ」
「……本当に準備が良いな汝は……」
そう言いつつオオガミからお茶を受けとると、一瞬ためらったあと一気に飲み、そのまま倒れる。
「なんでためらったのに飲んだの!? 熱いでしょ!?」
「い、行けると思ったが、予想より熱かった……吾、しばらく休む……」
「何をしに来たのさ……」
思いっきり火傷をしたバラキーにため息を吐き、そもそも何故ここに来たのかを聞くオオガミ。
バラキーは少し考えたあと、
「さっきまで暴れていたんだが、あびげいるに捕まってな……何故か叱られ、触手で殴られまくったからここに逃げてきた」
「あぁ……なるほど。よし、じゃあ軽く旅館内を歩いてみよう。面白いものもあるかもだし」
「……まぁ、汝がどうしてもというのなら、吾も行かないことはない」
「じゃあ、どうしても。行こうよバラキー」
「ふふん。汝は仕方のないやつだ。鬼の頭領たる吾がついててやらんとな」
そう言うと、先程のやけどはなんだったのかと思うくらい元気になるバラキー。
オオガミは苦笑しつつ、バラキーを連れて歩き出す。
* * *
「あ、あらマスター。奇遇ね」
「あ、エレちゃん。どう? 楽しめてる?」
廊下で偶然会ったエレシュキガルに声をかけるオオガミ。
すると、エレシュキガルは目を輝かせて、
「えぇ、とっても! 温泉も屋上庭園も天守閣からの景色もとっても良かったわ――――ハッ! い、いえ、私の冥界も負けてないけどね!?」
「うんうん。楽しめてるみたいで良かったよ」
途中から自分の冥界のアピールを始めたが、ともかく楽しんでいることが確認できたオオガミは頷く。
すると、エレシュキガルはオオガミの後ろに隠れて自分の事をじっと見つめるバラキーに気付く。
「(な、なんなのかしら……とっても見られているのだわ……もしかして、私なにかおかしいかしら!? 昨日は遊びすぎて遅くまで起きちゃってたから朝起きるのが遅くなって準備もちょっと雑になっちゃったのがバレてる!? いやそんなまさか……でもでも、可能性はあるのだわ! あぁどうしよう……)」
と、突然赤くなったり青くなったり首を振ったりと不自然な動きを始めたエレシュキガルを見て、オオガミは微笑むと、
「この時間帯は人がいないから、温泉を占拠できると思うよ。行ってみたら?」
「そ、そうなの!? それなら昨日試せなかった温泉でアイスを食べるって言うのも出来るかも……用事が出来たから行ってくるのだわーっ!」
エレシュキガルはそう言うと、走っていってしまう。
そして、それを聞いてたバラキーは、
「汝。本当に人はいないのか?」
「実際は分からないけどね。エルキドゥに聞いた方が確実だと思うけど、今なら大体皆遊んでると思うよ」
「そうか……うむ。まぁ、今日は行かぬがな。もう少し探索しよう」
「うん。レッツゴー」
そう言って、二人は歩き出すのだった。
放送コードに引っ掛かりそうな聖女さんはこの平和旅館には出さない……! たぶん……!