「さてと。クエストも増えたことだし、さっさとやっていきましょうか」
「あ、あの……マスターさんはあのまま放置なんですか……?」
そう言って、イリヤが指差す先にいるオオガミは、地面に倒れ伏し、微動だにしない。
故に、エウリュアレはにっこりと微笑んで、
「えぇ。何も考えずに突っ込んで消し飛ばされた人は立ち直るまでは面白くないから置いていくわ。そのうち戻ってくるはずだもの」
「え、えぇ~……わりとさっぱりしてるぅ……」
困惑ここに極まれり。といった感じの表情をしているイリヤに、エウリュアレは困ったように笑いながら、
「前にも何度もあったもの。まぁ、今回は流石に堪えてるみたいだけど、それでも月を跨いだらまた突撃してるでしょ。すぐに倒れると思うけど」
「手伝ってあげたりはしないんですか?」
「無理よ。何せ、私と彼女に縁はないし。むしろ、その点で言ったらあなたの方が何倍も役立つと思うけど……まぁ、行かせたら面白くないからあなたはこっちよ」
「えぇっ!? 面白さ優先なの!?」
今にも死にそうな雰囲気のオオガミを置いていき、目的の手助けになりそうな存在を引き離しにかかる辺り、的確にダメージを入れていくエウリュアレに、イリヤはやはり困惑の声をあげるのだった。
* * *
「……生きてるかしら?」
「生きてないかもよ?」
「解体してみる?」
「それ、生きてても死んじゃうので止めてあげましょう……流石にトナカイさんが可哀想です」
「いえ、可哀想で済ませられるレベルでは無いと思うのですが」
そんな声に反応し、オオガミが顔をあげると、ナーサリー達四人組に加え、アナがそこに立っていた。
「あらマスター。もう目覚めてしまったの? 今からワンダーランドへ招待しようと思ったのに」
「ワンダーランドってどんなところ?」
「きっと楽しいところだよ。だってナーサリーが言ってるんだもん」
「夢の国、不思議な国。ワンダーランドへご招待っ! って、する予定だったのに。もう。マスターが早く目覚めるからっ!」
「あれ、おかしいです……私はトナカイさんを起こしに行くんだと言われてついてきたはずなんですけど」
「明らかに息の根を止めに来てるので、もしかしたら私たちはストッパーだったのかもしれません」
「なるほど! 正気じゃないですね!?」
そも、目的であるオオガミを放置して遊び始めている辺り、既に正気な者はいないような気もするいないような気もする。
「……まぁ、楽しそうだしいいか」
オオガミは現状を認識してから、そう呟いて再び夢の中へと飛び立っていくのだった。
それ以上考えてはいけない……何があったかとか、追加の330個はどうしたとか、そう言うのは聞いちゃいけない……言うんじゃない……察してくれ……(血涙