「……珍しいこともあるもんだなぁ」
「マスターさん、大丈夫?」
そう言うアンリとアビゲイルの前には、落とし穴にはまったのか、首から上だけ出ているオオガミがいた。
「……エウリュアレにやられた」
「オイオイマスター。捕まっちまうとかなっさけねぇなぁ! でもいいぜ。なに、問題はない。そもそも英霊と張り合おうってのがおかしいんだ。ま、ゆっくり穴に埋まって頭を冷やして、次をどうするか考えりゃいいさ」
「とりあえず引っ張り出すわ」
「お願いアビー」
「オレの話はスルーですかそうですか」
話をまるで聞いていない二人に、思わず突っ込むアンリ。
しかし、アビゲイルが引っ張ろうともびくともしない事に、アビゲイルは首をかしげる。
「ねぇマスター……なんで抜けないの?」
「……何でだろうね。全く検討もつかない」
「まぁ、休めってことだマスター。周回はコイツが代わりにやってくれるだろうよ」
「いや、穴に埋まったまま休むとか、そんな高度なこと出来ないって。休めるけど、起きたとき身体中が痛いんだって」
「やったことあるかのような言い分なんだが……」
「穴はないけど、宙吊りはあるよ。頭に血が上って死ぬかと」
「……実はこのマスター。アホなんじゃないかと最近思い始めた」
「何言ってるのアンリ」
アンリの言葉に反応するアビゲイル。
オオガミはどんな反論が出るのかと期待し、
「とっても今更なことだと思うの」
「なるほど気付くのが遅いって言ってるのかコイツ」
「まさか今更って言われるとは思わなかったんだが……マスター、普段何をしたらこんなこと言われるんだよ」
「こっちは聞きたいんだけど……えぇ~……何をしたよ……」
「そう思うなら、マスターは普段の自分を振り返った方がいいと思うの」
「な、なんで説教されてるんだろう……穴に埋められて、少女に叩かれながら説教される……何やってるんだろう……」
段々とテンションが落ちていくオオガミ。
それに気付いたアビゲイルは、慌てたように、
「ど、どうしましょう!! マスターが落ち込んでしまったわ!」
「いや、原因はお前だよ」
「えぇ!? いや、そんなはず無いわ!」
「なんでそんな自信満々に言い切れるのか、不思議でしかねぇ……」
「いや、いつも通りとしか言えないけども……」
「……最初に会ったときと変わったなぁ……マスター一直線だったときはどこに行っちまったんだろうなぁ……」
「エウリュアレに似てきた感じはする……」
それに対して、アンリは軽くうなずいて納得するのだった。
よし。チョコをもらう準備は出来た……後はイヤホン装備して一気に貰うぞぅ……!