「はぁ……結局私が駆り出されるのね」
そう言ってため息を吐くエウリュアレの前には、気絶して縛り上げられて転がされているオオガミがいた。
「いやぁ……BBちゃんとしてはこのまま見ていたかったんですけど、リップが抗議するので仕方なく。文句はあちらへ」
「だってBBが不気味な笑顔をしてたし、メルトもちょっと機嫌悪そうになってたから……」
「別に、私は気にしてないけど。というか、あそこまで目の色を変えてくるとは思わなかったわ」
「まぁ、気持ちは分からなくも無いけどね~。アンタが来るの、めっちゃ待ってたし」
「そう……別に、そこまで頑丈に拘束する必要も無いでしょ」
「いやいや。これでも弱い方ですって。簡単に抜けてきますよこんな縄」
「そんな訳ないでしょ。これだけしっかり拘束されてるなら抜け出せるわけないじゃない」
何変な事を言ってるのよ。というメルトに、やれやれとばかりに首を振るBB達。
よく分かっていないメルトは、首を傾げるだけだった。
「正直、気絶してるのも珍しいくらいなのだけど。不意打ち出来るくらい油断してるとは思わなかったわ」
「アナタ達が不甲斐ないだけじゃなくて?」
「アハハ! 言うじゃん。でもまぁ、見ていればそのうち嫌でも分かるし」
「メルトの前でだけ弱くなるとかあったら、とっても便利なんですけどねぇ……」
「……なんだか、面白そうな話しか聞かないのだけど、そんなに面白い事をするの?」
「まぁ、周回しないとだし、起こすとしましょうか」
こちらを疑い続けるメルトに、エウリュアレは諦めたようにため息を吐くと、オオガミを起こしに行く。
「……えっと、おはようございます? あの、なんでエウリュアレがいるの?」
「そこで寝てるアビーに呼ばれてきたのよ。というか、なんで道具を一つも持ってないのに通報ものの事をしてるのよ」
「いや、持ち込みカメラでばれない様に撮影してただけなんだけど……アビーまでは気を配って無かった……そうだ、エウリュアレの召喚権はBBだけじゃないんだった……」
「珍しい事もあるのね。いつもは注意深いくせに。それだけ舞い上がっていたのかしら」
「そりゃ舞い上がってるけども……そんなに警戒心が薄れてたかぁ……」
そう言いながら、さりげなく縄を解き、立ち上がるオオガミ。
それにメルトは少し目を大きくし、
「ど、どうやったのよ! 人間に抜けられるとは思わなかったのだけど!」
「え? いや、それは企業秘密なので。ばれたら対策されるし」
「ほら、言ったでしょう? こういうことを普通にしてくるんですってこの人」
「いえ、でも、それくらいならBBまで面倒くさがるわけないわ……」
「分かればいいんです分かれば。ほら、センパイ。さっさと周回行きますよ。流石にエウリュアレさんのいる前で下手なこと出来ないでしょ?」
「いや、別にエウリュアレがいるいないはそんなに関係ないんだけど……」
そういうオオガミの足に蹴りを入れるエウリュアレ。
痛みにうずくまるオオガミを無視し、アビゲイルに目を向けると、
「アビー。寝るならカルデアに戻りなさい。用があったらノッブ経由で伝えるわ」
「ふぇ!? あ、分かったわ! 戻っておくわね!」
エウリュアレに言われ、門を使ってカルデアへ戻るアビゲイル。
それに対してBBは、
「良いんです? 私、センパイの護衛用に呼んだって言うのもあるんですけど」
「最初に呼ぶ予定だったのは私でしょ。予定通りになっただけでしょう?」
「まぁ、そうですね。じゃあ大丈夫です。センパイ行きますよ!」
「行きますってそんな引っ張らないでエウリュアレ。首絞まってる」
「それで死ぬんなら今頃死んでるわよ」
「……まぁ、そうよね。私以外にもいるに決まってるわよね」
エウリュアレに引きずられていくオオガミを見つつ、メルトはそう呟くのだった。
うぅむ、メルトをヒロインにしようとしても、エウリュアレの存在が大きすぎてどうしようも出来ない……