「あら、マスターじゃない。今日はエウリュアレはいないのね」
「別にいつも一緒にいる訳じゃないでしょ……」
休憩室でぼーっとしていたところをエリザベートに声をかけられるオオガミ。
返された言葉にエリザベートは首をかしげつつ、
「そうだったかしら? まぁいいわ。それはともかくとして、提案があるの」
「……嫌な予感しかしないけど、何?」
「次はインドに入るんでしょ? だから、皆の士気を上げるために、ライブをしようと思うわ。だから、その準備をしなさい。良いわね?」
それを聞いた瞬間、懐から小さな機械を取り出し、ボタンを押して机に置くオオガミ。
そして、改めてエリザベートに向き直り、
「……ゲストは?」
「そこはマスターに任せるわ。だってほら、アタシってば、最高のアイドルだし? どこだろうと誰が相手だろうと目立っちゃうんだから、自分から引き立て役を指名するだなんて、そんな残酷なことは出来ないわ」
「そ、そう……じゃあ、色々と設定しておくよ。レイシフトは使えないから、シミュレーションかここか……」
「あ、シミュレーションが良いわ。だって、この部屋だと私の歌声に耐えられないんだもの。それになんと言っても狭い! これが一番ダメね。だって観客が少なくなっちゃうもの!」
「ふむふむ……じゃあ、シミュレーションルームで考えてみるよ」
「えぇ、任せたわ! 決まったらすぐに連絡しなさいよ!」
そう言って去っていくエリザベート。
それを見送ったオオガミは、機械――――通信機を手に取り耳に当てると、
「で、どうする?」
『どうするもこうするも、センパイが約束したせいでやらざるを得ないじゃないですか』
『断るという選択肢がないのがお主らしいんじゃけど、まぁ、今回に限っては恨まれても是非もないよね!』
「反論できねぇ……BB。この前の機材は?」
『あ~……埃被ってるかもですねぇ……確認してきます』
『あ、確かアレの後ろじゃ』
『どこですか……あぁ、これですか』
向こうから物を動かす音が聞こえてきて、しばらくすると収まる。
「……あった?」
『はいは~い。ありましたよ~。流石BBちゃん。これはバッチリ動きそうです!』
『確認せんで良い訳ないじゃろ。メンテナンスするぞ。こっちに寄越せ』
『じゃあ作業エリアに置いておきますね。ちゃんと調べておいてくださいね~』
『当たり前じゃ。なんせ、絶対儂らも駆り出されるからな。エルキドゥもそうなんじゃけど、最近はマスターからも逃げられる気がしないんじゃが』
「そこまで人間辞めてないって。とりあえず、対策をしにそっちに行くよ」
『あい分かった。待っとるぞ~』
『早めに来てくださいね~』
そう言って、通信が切れる。
オオガミは悩ましそうな顔をしながら、工房へと向かうのだった。
……帝都ですってね。4章まだですかそうですか……