「実はメルトを肩車出来るんじゃないだろうか」
「どうしようついに壊れたわ」
オオガミの一言に対して今更のような事を言うエウリュアレ。
前々からダメだと思っていたが、ついに変なことを言い出し始めたので、何があったのかを仕方なく尋ねる。
「それで、何があってそんなことを言い始めたのよ」
「いや、ふと思い立ってマテリアルを確認してさ、エウリュアレとメルトの体重はそんな変わらないっぽいのを見て、もしや行けるのでは、と」
「暴論ね……ちゃんと読んだの? ヒールを除いてるわよ?」
「大丈夫大丈夫。スパルタ式とアッセイ式で鍛えられたこの体に不可能はないっ」
「そう……ついでに言っておくと、身長は貴方よりも高いのよ。ヒールを含むけど」
「……そこが難点だよねぇ……」
う~ん、と悩むオオガミ。
エウリュアレは呆れたようにため息を吐き、提案をしようとしたときである。
扉の開く音と共にメルトが入ってくる。
「はぁ……やっぱり刑部姫のコレクションは良いの揃ってるわ。私が持ってないものいくつかあったし。しばらく入り浸ってようかしら……」
「それはおっきーの心臓が持たなそうだなぁ……」
「それ、本人に同じこと言われたのだけど……それで、何か話してたみたいだけど、何かあったの?」
嬉しそうに笑ってたメルトは、そのまま話を切り替えてくる。
オオガミはそれに対し表情を凍らせるが、エウリュアレは面白そうに、
「そうね。マスターが、貴女を肩車出来るんじゃないかって息巻いてて。私とあまり体重が変わらないのだから行けるだろうって言ってるのだけど、私は止めた方がいいんじゃないかとは言ってるのよ?」
「ふぅん? 肩車ね……面白そうじゃない。でも、もし持ち上げられなかったら、蹴るわよ?」
「おっと、対価は命みたいだ。ひょっとしなくても、これ、よろけても死ですかね?」
「そうね。とっても楽しそうで何よりだわ。善は急げと言うし、早めにしましょう。マスターはもう準備できてるみたいだしね。えぇ、楽しみだわ」
「絶対良からぬ事を考えてるなこの女神サマ。目が怖いもん」
急かすエウリュアレの目が怪しく光っているのを見て、嫌な予感がするオオガミ。
だが、される側であるメルトも微妙に乗り気なせいで、完全に逃げ場がない。
「さぁ、いつでも良いわ!」
「ほら、存分にやりなさい?」
「……」
何とも言えない面持ちで、その場にしゃがむオオガミ。
そして、肩にメルトが乗ったのを確認すると、しっかりと支えて立ち上がる。
「……なんというか、もうちょっと天井が高い場所でやるべきだったわね」
「当たりはしないけど、外には出れないよね……アビーの時みたいにカルデア一周は無理か……」
「わりと恐ろしいこと考えてたのね。やったら膝を叩き込むわよ?」
「いや、しないって。メルトの頭を強打させる気はないし」
「それなら良いけど……やったら絶対に承知しないわよ」
ゆっくりと首を絞めながら言うメルトに、オオガミは何とも言えない表情になるのだった。
そういえば、前にも壊れてたような……定期的に壊れないと気が済まないんだろうか……
しかし、このマスター……肩車しておきながらあの太ももの魔力にやられないとは……さては人間じゃないな……?