「ねぇ子イヌ? なんで
「それはもちろん、尻尾の貸し出し。尻尾枕のためだとも」
困惑した様子のエリザベートに、ドヤ顔で答えるオオガミ。
これは、オオガミがついに忙しさから逃げ出し、休憩室でソファーに寝てたエリザベートの尻尾を枕にして寝始めたのが原因だった。
それからかれこれ三時間。体勢を変えたりおやつを食べたりとエリザベートがしている横で、オオガミは何かに取り憑かれているかのようにエリザベートの尻尾を追っていた。
「ねぇ、なんで
「ん~……そうだねぇ……ひんやりしてるのと、触り心地が最高だからかなぁ……このスベスベ感が堪らない……ふふふふふ……」
「な、なんかキモい……ん~……そんなにいいかしら? 確かに自慢ではあるけども、そんなに良いとは思えないんだけど」
そう言いながらも、ちょっと嬉しそうに尻尾の先端をペチペチとソファーに叩き付けるエリザベート。
だが、オオガミは若干不満そうに、
「エリちゃんの尻尾はね、夏仕様なんだよ。これはね、通常のケモ尻尾じゃ出せない圧倒的利点だとも。玉藻とかの尻尾は暖かいところだと毛によって温度が上がり、湿気を含み、とんでもないダメージを叩きつけてくる。それに比べてエリちゃんの尻尾は、毛とかが無いから熱を増幅しないパーフェクトな尻尾。この爬虫類特有の触り心地もまた完璧……うん。なんで水着が出ないのかが不思議でならないよ」
「え、あ、そ、そう? 正直言ってることがほとんど理解できないけど、褒められてるのは分かったから良いわ。うん。えへへ……」
オオガミによる言葉の洪水を受け、少し慌てるも、褒められていることだけは分かったエリザベートは、堪えきれず表情が緩む。
「それで、子イヌ。ライブの準備はいい感じ?」
「うっ!」
ビクリと震えるオオガミ。
エリザベートはそれを不思議に思いつつ、
「だってほら、いっぱい待ったし、きっととても素敵な舞台になるって思ったら、もういても経ってもいられないわ。だから、一枚一枚手書きでチケットを作ってるの! 全部世界に一枚だけのプレミアよ! ふふっ! 喜んでくれるかしら!」
「お、おぉ……期待が重い……エリちゃん、その、そこまで頑張らなくてもいいよ……?」
「何言ってるのよ。だってほら、
「……なるほどね」
オオガミはそう言うと、体を起こし、
「さてと。それじゃ、仕事に戻りますか。エリちゃんも無理しすぎないでね。当日に倒れるとか、そんな事にならないでよ?」
「もちろん。あんまり
そう言うエリザベートに手を振り、オオガミは工房へと戻るのだった。
微妙に重い空気になってるんですけどぉ……もっとふわふわの予定だったんですけどぉ……無理にエウリュアレを出さなかった弊害がこんなところに来るなんて……