「う~む、全く動けない」
「ふふっ、どうかしらマスター。ジャンタが砂風呂というのを教えてくれたから、マスターで試してみたのだけど!」
「もっと積んだ方がいいのかな? もっと固めた方がいいのかな?」
「ぎゅ~っと押したら固くなるよ! えいっえいっ!」
「……まぁ、楽しんでいるならいいか……」
動けなくなるほどに乗せられて固められた砂に埋められたオオガミは、埋めた張本人であるナーサリー達が楽しそうなのでよしとする。
「あと、ナーサリー。砂風呂はこんなに固めなくていいからね。もっと緩くていいから」
「そうなの? じゃあ、次はそうするわ」
「うん。それで、そろそろ掘り起こしてほしいんだけど……」
「それは出来ないわ。それじゃあねマスター。死なないことを祈ってるわ」
「待って待って。何が起こるんですか一体! 殺されるようなことがあるの!?」
「大丈夫よ。マスターの日頃の行いが良ければ、きっとそんなことにはならないはずだもの」
「不穏な予感しかない……!」
「それじゃあ、バイバイマスター。また後で会いましょう」
「ばいば~い!」
「楽しかったよマスター!」
そう言って去っていくナーサリー達を、オオガミは呆然と見ていた。
遠くで、何やらうさんくさい雰囲気の溢れる白いローブを着てフードを深く被った人物から何かを貰っている姿が見えたのだが、そのうさんくさい雰囲気に見覚えがあるような感じがしたので、後で王に話をつけてもらおうと決める。
そんなときだった。
「あら、不自然に砂山が出来てると思ったら、あなたがいたのね」
「ん、エウリュアレ。久しぶりだね?」
「そんなに離れていたかしら……今何周目?」
「ループものは他人に周回数を言うとろくなことにならないからね。秘密だよ」
「そう……なら、そうね。今回で終わりそう?」
「無理。まだかかるよ」
「残念。じゃあ、あと一ヶ月くらいは待っているわね。よろしく」
「いや、一ヶ月じゃ終わらな……ん? 待って。なんで一ヶ月? 分からないはずじゃ……?」
「それは、終わったら教えてあげるわ。それまで頑張ってね?」
「あ、うん……」
エウリュアレに言われ、頷くオオガミ。
ただ、一ヶ月あって本当に終わらないかと言われると、少し悩むくらいの速度ではあった。
だが、それ以前に、オオガミには目下最大の敵がいた。
「それはそれとして、助けてくれない?」
「気が向いたらね」
そう言って、オオガミを押し潰している砂の上に座るエウリュアレ。
今更少し重くなったところでなんとも思わないが、座られているのは何とも言えない気まずさがあった。
そんなオオガミの気持ちを、知ってか知らずか、楽しそうに笑いつつ、
「メルト~。ちょうどいい椅子があったわよ~」
「えっ、メルトもいるの!?」
「いるわよ。ずっと一緒にいたもの」
当然でしょ? と言わんがばかりの表情に、オオガミは頬を引きつらせる。
そして、そんなオオガミのことなど知らずにやって来たメルトは、
「椅子って聞いたけど……何やってるのよ。マスターを辞めて椅子に転職したの? 随分とまぁ劇的ね。気分はいかがかしら?」
「いやぁ、全くと言って良いほど動けないからねぇ……素直に助けてほしいなぁって」
「そう。じゃあ私たちが飽きるまで椅子になっててちょうだいね。マスター」
「悪意しかねぇなこの二人……!」
オオガミがそう声をあげても、二人は楽しそうに笑いながら遠慮なくオオガミの上に座るのだった。
久しぶりに合流。なお同人の進捗は微妙という。まぁ、なんとかなるんじゃないかなぁと思いつつ。
ところで、砂ってどれだけ乗せたら動けなくなるんでしょうね?