ガゴンッ! と音を立てて止まるBBスロット。
そこには二枚の黄色のカードと、『×2』の文字。
「おぉ~っと! グッドラーック! これは激レア効果の、スキルカード二倍化だぁー!! 現在の手持ちカードが二倍になるという最強レベルのお助け効果ですとも! これは生き残れる可能性が大いに増えてしまったぁー!」
「う~む、見てる側としては一番微妙な効果。解説のマリーン。どう見る?」
「人を海みたいに言ってくれるね。幻術で君を溺れさせるよ?」
「目がマジなんじゃが。冗談聞かんのかコイツ」
「単純にキャパオーバーなだけでは。きっと心労が溜まってるんですよ。後でナイチンゲールさんに渡しておきましょう」
「それだけは勘弁願いたいね。とまぁ、真面目に解説するとだ」
気を取り直して、咳払いを一つ。
「まず、スキルカードはこのゲームにおいて生命線。多ければ優位になるというのは自明の理だろう。なので、それが二倍になるということは、基本生存確率も伴って上がるというわけだ。もちろん二倍になる訳じゃないし、最初に捕まったエウリュアレのように、気づく前に終わるというのも十分ありえるからね。結局逃げるときに有利になるだけなんだし」
「うむ。真面目すぎてつまらんな。合ってるから文句はないが」
「つまらないって言う感想が文句に入らないんだね? よぅし楽しみにしててね。すぐに言い返してあげようじゃないか」
ノッブの余計な言葉に素直に反応するマーリン。
BBはそんな様子を横目に、
「ではでは、BBスロットの効果でどうなってしまったか。これがバランスブレイカーになってしまったか。エウリュアレさんだけ捕まり損か。見てみましょー!」
* * *
「ふっはははははは!! この程度で止まらぬぅ!! スカサハ師匠とメイドオルタに殺されかけながら砂浜を走ったのは伊達じゃないんだよぉ!!」
「どんどん人間辞めていくわね。サーヴァントステータスのDには届くんじゃない?」
「まだ人間の範囲だよたぶん!」
そう言いながら、二人は向かってくるメドゥーサから全力で逃げていた。
メドゥーサから何故か異様にやる気を感じられるのは、果たしてエウリュアレが捕まって遠慮する相手がいなくなったからなのか、それとも別の狙いがあるのか。
全くもってその内容は分からないが、とにもかくにも相手が本気で追いかけてきているのだけは確実だった。
「しかし、本当にどうしたものか。頑張ればガンドは当てられると思うけど、逃げ切れる自信ないんだけど」
「さっきも同じこと言ってたわ。で、カード二倍の効果はどうだったの?」
「逃げながら確認しろとか無茶言うよね! 返してもらったカードが二枚になってたよ!」
「あら、本当に増えたのね。こっちを見てるのは分かってるんだけど、どうやって増やしてるのかしら。もしかしてここ、電子世界に変えられてたり……?」
「いやまさかそんな。まぁ、そうだったとしても何かある訳じゃないけど……っ!」
やはりと言うべきか、人間では追ってくるメドゥーサから逃げ切れる訳もなく、みるみる距離を縮められていく。
メルトはそれを確認すると、
「で、どうするの。そろそろ限界っぽいけど」
「細い道を通っても有利なのはあっち……だけど、それは何も出来ない場合。要するに、反撃の術があればいけるわけだ! 路地に逃げる! メルトはこのまま直進で逃げて!」
「……捕まるんじゃないわよ!」
「もちろん!」
そう言って、二手に別れる二人。
案の定オオガミを追ってきたメドゥーサ。
「まぁ、こんな細い路地ならかわされないでしょ……ガンド!」
細い通路を曲がってすぐ、真後ろに放つガンド。
メドゥーサは飛び出た直後だったため反応することすら出来ずに直撃し、それを確認することもなくオオガミは路地を走り抜ける。
* * *
「クハハハハ! 負ける気がしないな!!」
「分かりましたから黙っててください!」
騒ぐバラキーに静かにしろとチョップを叩き込むカーマ。
バラキーは頭をおさえつつ、
「吾、不思議なのだが、何故こんなところに隠れなければならんのだ……?」
「大通りを通ったら見つかりやすいに決まってるじゃないですか……! だからわざわざこんな細い通路を通ってるんです!」
「いや、それは何とも言えぬが……だってほら、曲がり角で思わず出くわすとか、吾おっきーの部屋でよく見た展開なのだが……」
「それはあくまでもそう言う話の中だけで、現実でそう言う事が起こるのは――――」
チラリ、と曲がり角の先を覗いたカーマは、バラキーを抱えて道を逆走する。
「うむ。最後まで聞くまでも無く、追われてるのだろう? 吾、逃げていいか?」
「私も一緒にお願いしますね!」
カーマがそう言うと、バラキーはカーマの腕の中から抜け出すと、すぐにカーマを抱えて仕切り直しを発動させる。
「……これ、スキルカードが無くなったら諦めるしかないのでは?」
「一蓮托生です。無くなったら精一杯逃げて諦めましょう」
「潔過ぎないか……? それで何故ボスまでやったのか……やはりレイドボスではないのがダメなのだろうか……」
「私、その話を聞いた時スッゴイ不機嫌そうにしてたのを知ってるんですが。ボコボコにされたとか、一撃で倒されたとか、バスター怖いとか。なんでそんな叩いておいて、人に勧めるんですが。鬼ですか。悪魔ですか」
「うむ。吾、鬼だな」
そう言いながら、路地裏から逃げ去るバラキーとカーマ。
* * *
『という事で、第二回ミッション! 今回はお得アイテムの期間限定配布のお知らせです! 今回は特殊装甲という事で、触れられた事に反応して相手を拘束する、リアクティブアーマーですとも! 数は2つ! 前回に引き続き暗号とかは別段用意していないので、頑張って探してくださいね~!』
* * *
「あ~……必要なの、あの二人じゃねぇか? オレもマスター達も一応逃げる手段あるし……スキルカードが無くなったら終わりなのはアイツらだ」
ロビンはそう言ってため息を吐くと、
「仕方ねぇな……譲渡禁止とは言われてねぇし、探す分には問題ないか」
そんなことを言いながら、ロビンは路地裏を出て――――
「この捕まえ方は儂の本意ではないが……仕方あるまいよ」
「う~ん締まらねぇ」
つい最近別の誰かが同じ捕まり方をしてたような事を思い出しつつ、ロビンは遠い目をするのだった。
* * *
「ダッサ! 正気ですかロビンさん! その捕まり方めちゃくちゃダサいです!!」
「うおぉ……何気に今の所李書文に全員捕まえられとるぅ……」
「気配遮断は無いはずなんだけどね? 不思議な事だ。なんでだろうね?」
う~ん。と考えるマーリンだったが、おそらくそれほど不思議なモノでもないもので、単純に気付かなかっただけの事だろう。
「しかし、特殊装甲。面白そうじゃな?」
「そうだね。彼女の話の説明の通りだとすると、その装甲は触れられると同時に相手を拘束する。つまり、とても楽になるものだろう。逃げるのに心持ち楽になるしね。二つなのは、競争させるつもりなんだろうね」
「いや、単純に時間が足りんくて作り切れなかっただけじゃ。アレは儂には手伝えんし」
「なるほどね。でも、こっちの方が楽しくなりそうだ」
そう言って、マーリンはにやりと笑うのだった。
* * *
「さて。メルトと別れちゃったけど、どうしよう。逃げ切れるかな」
そう言いながら、リアクティブアーマーを探すオオガミ。
メルトと別れてメドゥーサを撒いたのは良いが、次に誰かに見つかったらかなり不味い状況だった。
手持ちのカードは一枚。つまり、対抗策は一つという事だ。
「ま、急いで見つければ問題ないか」
そう言って、話し始めるのだった。
* * *
「……一番は私かしら」
無造作に置かれているリアクティブアーマーを前に、そう言うメルト。
左右を見渡しても誰もいないのでどうしたものかと考えるが、
「まぁ、誰かが来るまでここで時間をつぶしてましょうか」
そう言って、メルトは天を仰ぐのだった。
* * *
「吾、いい加減スキル使い過ぎで疲れたのだが。休んでいいか?」
「仕方ないですねぇ……次は何とかして私が撒きますよ。ほら。乗ってください」
そう言って、バラキーを背負うカーマ。
「さて、それじゃあそのリアクティブアーマー? とやらを探しに行きましょうか。あったらかなり有利になりますし」
「うむ。見つかっても楽になるというのは中々良い事だ。しかし、どこにあるか。これが分からぬ……だが、BBのすることだ。分かりやすい所に置かれているだろう」
「なら、大通りですね……あんまり通りたくないですけど、しょうがないですね」
そう言いながら、二人は大通りを歩いて行くのだった。
* * *
「はてさて。メルトが最初にたどり着きましたが、取る様子が一向にないという事は、おそらく自分以外に渡すつもりなのでしょう。しかしあそこでのんびり待つなんて、かなり余裕ですね?」
「まぁ、彼女は普通に速いからね。スキルカードがあるという事もあって、余裕はかなりあるんじゃないかな?」
「そうじゃな。スキルカードはマスターが1枚。メルトが2枚、バラキーとカーマが3枚という所じゃな。あの二人はバラキーに集中して集めているから、一緒に数えるのが一番であろう」
三人はそれぞれ意見を言いつつ、BBが、
「では、誰がたどり着くかと面白くなってきたこの時に! ぶちかましますよBBスロット! グレート・デス・クロー!」
ガゴンッ! と重苦しい音を立てて、BBは元気にレバーを引くのだった。
無理。エウリュアレデート延期! 次の夏イベが何とかしてくれるでしょう! とりあえず明日には決着付けるぞぉ!!
というか、結構撒いたんですけど、それでもエグイ文字数になってません……? こんだけ長いと、割と読み辛い気もしてきたんですが。とりあえず駆け抜けますね。頑張ります。