「あらマスター、ごきげんよう。気分はどうかしら」
「……寝起きドッキリ? 明らかに待ってたよね?」
目を覚ますと自分が寝ているベッドに腰かけているラムダ。
いや、今はスタァではないオフの状態で、更にいつもの霊基に戻っているのも相まってメルトと呼ぶべきだろう。
「えぇ、待っていたわよ? 今日は午後だもの、急ぐ必要もないしね。朝食には行けるかしら?」
「行けるよ。ちょっと待ってね」
オオガミはそう言って起き上がると、メルトが目を反らした一瞬で着替えて、財布をポケットにしまうと、
「よし、もう大丈夫だよ」
「……なんか、着替える速度がどんどん上がってない?」
「そりゃ、いつもエウリュアレがいるところで着替えなきゃいけないわけですし。最近はメルトも一緒だしね。早着替えの修得に力を入れますとも」
「そ、そう……というか、よくその状態で暮らせるわね」
「主犯の一人に言われたくないなぁ……」
そう言いながら、メルトの手を取って立ち上がらせると、
「じゃ、行こうか」
「……えぇ、行きましょうか」
何処か不満そうな彼女を連れて、部屋を出る。
* * *
「むっ。今日はお二人様かご主人。エウリュアレは先に食べて出ていったゾ?」
「あぁうん。大丈夫。今日はそういう予定だから」
「ふぅむ? よくわからんが、たぶんこういうのは普通逆になると思う。キャットの野生の勘がそう囁いてる……ご主人。夜道には気を付けるのだワン」
「めちゃめちゃ不穏なこと言ってくるね? まぁ気を付けるけど。じゃ、二人でよろしく」
「あい分かった。お好きな席に座って待つが良い。すぐにキャットの出来立てほかほか栄養満点朝御飯を運んでやろう」
「うん、よろしく」
オオガミはそう言うと、メルトと一緒に手近なテーブルに向かい合って座る。
「キャットって、どこでも厨房を任されてる気がするのだけど、遊んでる時ってあるのかしら」
「たまに鬼ごっこをするときは嬉々として突撃してくるよ?」
「……この前みたいな事をそんな頻繁にやってるの?」
「修行の一環で。スカサハ師匠とメイドオルタが『体力をつけるには走り込みが一番。ゲーム形式で鬼ごっこでもやるか』とか言い出したのが原因。しかもそっちは礼装の使用禁止だから見つかったら終わりのかくれんぼですとも。唯一の救いは、師匠のルーンのお陰で魔力探知をされないことくらい?」
「……さてはあの二人、殺す気じゃないの?」
自分のマスターがとんでもない目に合っているらしい事を知ったメルトは、若干不機嫌そうに顔をしかめる。
「まぁまぁ。別に困ってはないし、良いんじゃないかなって思ってるんだけどね? 何より、体力がつけばそれだけ遊んでいられるってことだし」
「そう? まぁ、アンタが嫌じゃないなら良いわ。それに、気が向いたら手伝うのも良いかもしれないわね?」
「それはその、師匠とメイドに相談してほしいなぁ……」
オオガミのその言葉を聞いて、一瞬驚いたような顔をしたと思えば、すぐに悪巧みを思い付いたかのような笑みを浮かべるメルト。
そして、そんな二人の間にキャットは料理を置く。
ジュージューと響く肉の音。気泡が弾ける度に鼻を突き抜ける甘いソースの香り。それだけで美味しいと分かるその存在は、しかし朝から食べられるようなものではないと心が震える。
「コンドル100%デミグラスハンバーグ! 存分に食うと良いぞご主人!」
「あ、コンドルか。ならヘルシーだね?」
「ちょっと待って多いに騙されてるわよそれ。ヘルシーの欠片もないでしょうが」
「取れたて新鮮なコンドルをサクッと絞めてトコトンミンチにして作った自家製ハンバーグ。確実に旨いぞ。メルトはどうする。食えるか?」
「いや、量的にちょっと……サンドイッチとかお願いできないかしら」
「任せろ。ハムエッグで良いナ?」
「えぇ。シェフに任せるわ」
メルトの意見を聞き、去っていくキャット。
オオガミはとりあえず、とナイフとフォークを取り出すと、
「い、いただきます……!」
そう言って、意を決して食べ始める。
まずハンバーグを固定するためにフォークを刺す。直後にソースを弾きながら溢れ出る肉汁は、ヘルシーさを欠片も思わせない程の量で、ナイフの刃を軽く滑らせるだけでするりと切れる。
その断面から流れ出る肉汁に勿体ないと言う気持ちを抑えつつ口へと運び、噛み締める。
「……うん、うまい!」
「そ、そう……食べられそう……?」
「うん。これなら余裕そう。メルトも食べる?」
「そうね。貴方が食べさせてくれるって言うのなら、食べても良いわ」
「じゃあ、はい。あーん」
「……一瞬も悩まず差し出してくるあたり、分かってたんでしょ」
「まぁね。ほら、食べて」
オオガミに言われ、仕方ないとばかりに食べるメルト。
そして、しばらくの沈黙の後飲みこむと、
「……美味しいじゃない」
「だよね……かなり当たりでは……カルデアでも食べられないかな……」
「コンドルを密輸入すればあるいは……?」
「嫌な賭けになりそうだね……」
「普通に頼めば輸入できそうだけども」
そんな事を真剣に話しているうちに、メルトにもサンドイッチが届くのだった。
* * *
「ふぅ……意外にも食べれてしまった……」
「釣られて私も食べてしまったわ……恐ろしいわねキャット……」
メルトはそう言いながら、霊基を変化させてラムダに――――スタァになる。
そして、サングラスをかけると、
「それじゃ、私はこれで。あぁそれと、ペアチケットを上げるから、後で来なさいよ。午後からだからね」
「うん。ちゃんと行くよ」
「えぇ。次はステージと観客席ね。待ってるわ」
ラムダはそう言うと、水天宮に向けて歩いて行くのだった。
もう少し先延ばしに使用かと思ったんですけど、早めにやらないと私が持ちそうにない……というか、今回やりたかったの、最後のチケット渡しだけだったんですけど、気付いたらいつもの倍書いてるんですが。メルト凄いな執筆量増えたよ!?
でも明日が本番。期待に応えられるように頑張るます……